佐藤愛子さんと小島慶子さんが夫婦関係や人生について手紙をやりとりした単行本『人生論 あなたは酢ダコが好きか嫌いか』が刊行
「喧嘩はお互いを理解し愛情を深めていくために大事なんだ」とか言う恋人もいたのだが、そもそも喧嘩がしんどかった。嫉妬や束縛をするだの嫌だのいうことが面倒で「激しくやりあえる人と付き合ってください」と言って別れて今の亭主と結婚した。所詮他人…特に男に期待することは何もない。彼らは言わなきゃ分からないし、誉めてあやして頼ったふりして上手いこと支えるのが一番であると我が祖母リュウコから教わった。彼女の配偶者である祖父は40歳で病死。リュウコはそれから再婚もしていない。男はこりごりだという。こりごりだったが、まあまあ祖父を好きだったと。
私はこのまあまあという感覚が好きだ。今の亭主とは激しい情愛をぶつけ合って一緒になったわけではない。まあまあ好きで、まあまあ気が合った。意地汚くてヘラヘラした私と共に生きてくれる亭主であり、共犯者であり、長男のようにも見える。結婚してからは周囲から「別居婚なんてなめてる」「ままごとかよ。すぐ離婚だろ」「子供ができたらどうするんだろうね。考えが甘いよ」と言われ続けているが、「おっしゃる通りです」と反論できませんな姿を演じる。私の精神的な長男の役割は亭主がもうしているのだが、これを世間に大っぴらにいうと少子化問題にぶつかるので黙っておく。
この本はどうありたいか、どう生きたいかを見つめて働くことはこんなにも苦しく面倒だが、「たの苦しい」という気持ちは生き甲斐にも繋がるのかもしれないと諭してくれた。現代は非常にトゲトゲ、カクカクしていてしんどい。でも生きにくいけど生きている。ずっと楽しいなんて無理で、楽しい苦しい楽しい苦しいとグルグル感じていることが生きていることだと思った。
ちなみに当方、酢ダコは好きなので話が広がらない。カニミソは好きではない。カニミソ。私が嫌いと言ってもきっとカニ業者は傷つかない。カニミソはカニミソ美味しい! と思う人が大勢いて、彼らが私の嫌いを凌駕するほど愛しているだろうから。そっちはそっちでよろしくやってくれたまえ。
※女性セブン2020年5月21・28日号
佐藤愛子さんとの共著の単行本のタイトルは『人生論 あなたは酢ダコが好きか嫌いか』