1980年代のブームで全国にパチンコ店が激増。高知市には女性専用パチンコ店もできた(時事通信フォト)

1980年代のブームで全国にパチンコ店が激増。高知市には女性専用パチンコ店もできた(時事通信フォト)

◆娯楽、エンタメには難しい時代になるでしょう

 西口さんのパチンコ店は安泰、もう日常は戻っていた。その後の話は1980年代から1990年代、昔のパソゲーとゲーセンの話だった。多数の専門誌が新作のスクープや攻略記事を競い、私もその只中にいた。ウィンドウズの登場とインターネットの普及とともに廃れ、私の仕事も無くなった。パソゲーは美少女ゲームやネトゲに、ゲーセンはカップルや家族連れが楽しむ小さなアミューズメント施設に鞍替えし、私もあくまで仕事として順応していったが、どれも私や西口の中にあるそれではなかった。娯楽なんてそんなものだ。

「いまのところこの辺では風当たりとか気にならないですけど、都市部のホールはこれからも厳しいとこが出るでしょう。それは認めます。イメージ良くしましょうだなんて言っても結局のところギャンブルですからね。損をする人がたくさんいて、それで私たちが食えてることも事実です。どの仕事もそういった面はありますが、趣味趣向でしかない娯楽、エンタメには難しい時代になるでしょうね」

 コロナはパチンコのみならず、「不要不急」のエンタメすべての普遍的な問題点を改めて露呈させた。ライブハウス、芸能界、アウトドア(叩かれたサーフィンやツーリングも)、なくても困らない娯楽産業を「砂漠のインド人は魚を食わぬことを誓う」というゲーテの言葉通りに誓った自粛警察、お気持ちヤクザなる人々が、自分に興味のないもの、自分に関係のないもの、自分の気に入らないものを各々自粛期間中、目一杯に叩いた。誓うだけでは飽き足らず、魚を食う人間が気に入らないと誹謗中傷で攻撃し、ついには命を奪ったりもした。西口さんの日本に対する言葉には、その辺の悔しさと絶望感もあるのかもしれない。高校時代の西口さんは日本製パソコンを誇り、日本のゲームやアニメは世界を席巻すると言い切る、まさしくジャパン・アズ・ナンバーワンの男子だった。

「パチンコやパチスロでアニメ原作は多いけど、やっぱ演出とか凄いんだよ。まどマギとかシンフォギアなんか上崎なら絶対気に入る。お前ならそんな突っ込まないだろうし」

 16号線、野田まで送ってもらった高級国産車の中で萌え系の機種を熱く勧める西口さんは、ハマったパソゲーをやたら押す、高校時代の西口そのものだった。

(『イース2』やったか上崎、あれはもう文学だ)

 西口さんの本質は、あのころと何も変わっていない。

 その他専門的な話も聞かせていただいたが、本稿の主題はそれではないので割愛させていただいた。また西口さんの話した機種は『ぱちんこ 劇場版 魔法少女まどか☆マギカ』と『PF戦姫絶唱シンフォギア2』のことだと後で教えてもらった。作品は好きだが、私はじっとしていられない、座っていられない性分なのでハマる前に席を立ってしまいそうだ。

 日本人の余暇の3割近くを占めるとされる20兆円産業のパチンコ、ネット界隈の風当たりは強いが、声なき声の支持は厚い。淘汰はあってもそれなりに残ることは間違いない。それは時代の、世代の移り変わりによって変わってゆくだろうが、まだまだ遠い話だろう。そして西口さんは口癖でもある「支持してくれるお客様だけを向いていればいいんです」の通り、しぶとく生き残ってゆくだろう。西口さんのホールは普段よりは入ってないと言っていたが、パチンコを知らない私にすれば賑わっているように見えた。コロナ対策に関しては「新型コロナウイルス感染症の拡大予防ガイドライン」という業界団体の指針に基づいて徹底しているという。

「ホールからクラスターは発生してないからね、それなのにコロナだからと叩かれる、おかしな話だね」

 西口さんの言葉だ。是非はともかく、私もこのしぶとさと狡猾さを、同じ不要不急の存在として見習いたいとは思う。叩き叩かれ悲しいかな、赤の他人の誰が助けてくれるわけではない、自ら助くる者を助くのが人間社会の普遍的本質であることを、そんな利己の正しさに多くの日本人が気付かされてしまったこともまた、コロナがもたらした不幸なのかもしれない。

●ひの・ひゃくそう/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。ゲーム誌やアニメ誌のライター、編集人を経てフリーランス。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。2019年『ドキュメント しくじり世代』(第三書館)でノンフィクション作家としてデビュー。近刊『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。

関連記事

トピックス

林家ペーさんと林家パー子さんの自宅で火災が起きていることがわかった
《部屋はエアコンなしで扇風機が5台》「仏壇のろうそくに火をつけようとして燃え広がった」林家ぺー&パー子夫妻が火災が起きた自宅で“質素な暮らし”
NEWSポストセブン
1年ほど前に、会社役員を務める元夫と離婚していたことを明かした
《ロックシンガー・相川七瀬 年上夫との離婚明かす》個人事務所役員の年上夫との別居生活1年「家族でいるために」昨夏に自ら離婚届を提出
NEWSポストセブン
林家ペーさんと林家パー子さんの自宅で火災が起きていることがわかった
「パー子さんがいきなりドアをドンドンと…」“命からがら逃げてきた”林家ペー&パー子夫妻の隣人が明かす“緊迫の火災現場”「パー子さんはペーさんと救急車で運ばれた」
NEWSポストセブン
豊昇龍
5連勝した豊昇龍の横綱土俵入りに異変 三つ揃いの化粧まわしで太刀持ち・平戸海だけ揃っていなかった 「ゲン担ぎの世界だけにその日の結果が心配だった」と関係者
NEWSポストセブン
“高市潰し”を狙っているように思える動きも(時事通信フォト)
《前代未聞の自民党総裁選》公明党や野党も“露骨な介入”「高市早苗総裁では連立は組めない」と“拒否権”をちらつかせる異例の事態に
週刊ポスト
韓国アイドルグループ・aespaのメンバー、WINTERのボディーガードが話題に(時事通信フォト)
《NYファッションショーが騒然》aespa・ウィンターの後ろにピッタリ…ボディーガードと誤解された“ハリウッド俳優風のオトコ”の「正体」
NEWSポストセブン
立場を利用し犯行を行なっていた(本人Xより)
【未成年アイドルにわいせつ行為】〈メンバーがみんなから愛されてて嬉しい〉芸能プロデューサー・鳥丸寛士容疑者の蛮行「“写真撮影”と偽ってホテルに呼び出し」
NEWSポストセブン
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《佳子さまどアップ動画が話題》「『まぶしい』とか『神々しい』という印象」撮影者が振り返る “お声がけの衝撃”「手を伸ばせば届く距離」
NEWSポストセブン
交際が報じられた赤西仁と広瀬アリス
《赤西仁と広瀬アリスの海外デートを目撃》黒木メイサと5年間暮らした「ハワイ」で過ごす2人の“本気度”
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(公式サイトより※現在は削除済み)
《15歳女子生徒にわいせつ》「普段から仲いいからやっちゃった」「エスカレートした」“やる気スイッチ”塾講師・石田親一容疑者が母親にしていた“トンデモ言い訳”
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 「高市総理を阻止せよ」イカサマ総裁選の裏ほか
「週刊ポスト」本日発売! 「高市総理を阻止せよ」イカサマ総裁選の裏ほか
NEWSポストセブン