ライフ

佐藤愛子氏×小島慶子氏の往復書簡に見る夫婦関係の妙味

『人生論 あなたは酢ダコが好きか嫌いか 女二人の手紙のやりとり』は2年にわたる佐藤愛子さんと小島慶子さんの手紙のやりとりをまとめた

【書評】『人生論 あなたは酢ダコが好きか嫌いか 女二人の手紙のやりとり』佐藤愛子×小島慶子/小学館/1000円

 論理を踏んづけ情念に生きる96歳の佐藤愛子さんと、理屈の隘路にハマり呻吟する47歳の小島慶子さんが交わした金言、至言が満載の往復書簡エッセイ集を、仲野徹さんは「恐怖のバイオレンスvs心理サスペンス」と評した。その理由とは――爆笑必至の書評をお届けします。

【評者】仲野徹
大阪大学大学院・生命機能研究科および医学系研究科教授。1957年大阪市生まれ。著書に『こわいもの知らずの病理学講義』『(あまり)病気をしない暮らし』など。読売新聞、HONZなど多くのメディアで書評を担当。
 
 * * *
 人生論やのに『あなたは酢ダコが好きか嫌いか』とは、どういうこっちゃねん。訝りながらパラパラッとめくり始めたが最後、あまりに面白くて、文字通り一気に読み切ってしまった。

 佐藤愛子さんと小島慶子さんの往復書簡だ。佐藤愛子さんのご本は読んだことがあるが、大阪人なので主として東京でご活躍されている小島慶子さんのことは存じ上げなかった。

いやあ、佐藤さんのようなすごい人との手紙のやりとりって大変やろうなあと思って読み始めたのだが、あにはからんや、どちらかというと小島さんの方が強烈ではないか。

 テーマは、夫婦、世の中、それから人生である。圧巻は、四章のうち二章でとりあげられている夫婦についてだ。まずは、よそ様の夫婦関係を垣間見るという下世話な楽しみが満たされる。そして、お二人ともむちゃくちゃ偉いということがよくわかる。スタイルは違うが、ご主人、といったら叱られるかもしれないから、もとへ。夫に対する尽くし方が半端じゃない。

 すごい内助の功で、うらやましくもある。いや、内助の功などという言葉ではとてもあらわせない。しかし、なにものも代価なしで手に入れることなどできないのは世の常だ。本質的なところで夫を愛し、やさしく大事にしておられる(佐藤さんの場合は結局、離婚されたので過去完了形ですけど)のは間違いないが、ここぞという時にはむっちゃ怖い。

 その怖さのパターンは異なっている。佐藤さんは、短期集中的で物理的な怖さ。怒ったが最後、バケツの水をぶっかけ、牛乳瓶を投げつける。それも、帰宅した瞬間を狙う奇襲戦法まで採用されるという念の入れよう。

 一方の小島さんは、長期的で心理的な怖さ。十年以上も前のことをいつまでも忘れず、淡々と夫に詰め寄る。さらに、未来に向けての戦略まで練ってある。バイオレンスと心理サスペンスという違いはあるが、怖さの絶対値にはいずれも甲乙つけがたし。

 しかし、なんともいえない愛情深さがご両名に感じられるのが、この本の最大の持ち味だ。夫のことをあれこれとぼやく小島さんに対し、佐藤さんは、あなたはまだまだねとか、おのろけにしか聞こえませんとか、ごっつうええ感じであしらっていかれる。小島さんも、90歳を超えておられる佐藤さんも、なんだかとっても可愛らしい。

関連キーワード

関連記事

トピックス

米倉涼子(時事通信フォト)
《米倉涼子に“麻薬取締部ガサ入れ”報道》半同棲していた恋人・アルゼンチン人ダンサーは海外に…“諸事情により帰国が延期” 米倉の仕事キャンセル事情の背景を知りうるキーマン
NEWSポストセブン
第79回国民スポーツ大会の閉会式に出席された秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
「なんでこれにしたの?」秋篠宮家・佳子さまの“クッキリ服”にネット上で“心配する声”が強まる【国スポで滋賀県ご訪問】
NEWSポストセブン
広末涼子
《“165km事故”を笑いに》TBSと広末涼子側のやりとりは「大人の手打ち」、お互いに多くの得があったと言える理由
NEWSポストセブン
ガサ入れ報道のあった米倉涼子(時事通信フォト)
【衝撃のガサ入れ報道】米倉涼子が体調不良で味わっていた絶望…突然涙があふれ、時に帯状疱疹も「“夢のかたち”が狭まった」《麻薬取締法違反容疑で家宅捜索情報》
NEWSポストセブン
賭博の胴元・ボウヤーが暴露本を出版していた
《水原一平を追って刑務所へ》違法胴元・ボウヤーが暴露した“大谷マネー26億円の使い道”「大半はギャンブルでスった」「ロールスロイスを買ったりして…」収監中は「日本で売る暴露本を作りたい」
NEWSポストセブン
イギリス人女性2人のスーツケースから合計35kg以上の大麻が見つかり逮捕された(バニスター被告のInstagramより)
《金髪美女コンビがNYからイギリスに大麻35kg密輸》有罪判決後も会員制サイトで過激コンテンツを販売し大炎上、被告らは「私たちの友情は揺るがないわ」
NEWSポストセブン
"殺人グマ”による惨劇が起こってしまった(時事通信フォト)
「頭皮が食われ、頭蓋骨が露出した状態」「遺体のそばで『ウウー』と唸り声」殺人グマが起こした”バラバラ遺体“の惨劇、行政は「”特異な個体”の可能性も視野」《岩手県北上市》
NEWSポストセブン
米スカウトも注目する健大高崎・石垣元気(時事通信フォト)
《メジャー10球団から問い合わせ》最速158キロ右腕の健大高崎・石垣元気、監督が明かす「高卒即メジャー挑戦」の可能性
週刊ポスト
第79回国民スポーツ大会の閉会式に出席された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月8日、撮影/JMPA)
《プリンセスコーデに絶賛の声も》佳子さま、「ハーフアップの髪型×ロイヤルブルー」のワンピでガーリーに アイテムを変えて魅せた着回し術
NEWSポストセブン
大谷翔平の妻・真美子さん(写真/AFLO)
《髪をかきあげる真美子さんがチラ見え》“ドジャース夫人会”も気遣う「大谷翔平ファミリーの写真映り込み」、球団は「撮らないで」とピリピリモード
NEWSポストセブン
宮家は5つになる(左から彬子さま、信子さま=時事通信フォト)
三笠宮家「彬子さまが当主」で発生する巨額税金問題 「皇族費が3050万円に増額」「住居費に13億円計上」…“独立しなければ発生しなかった費用”をどう考えるか
週刊ポスト
畠山愛理と鈴木誠也(本人のinstagram/時事通信)
《愛妻・畠山愛理がピッタリと隣に》鈴木誠也がファミリーで訪れた“シカゴの牛角” 居合わせた客が驚いた「庶民派ディナー」の様子
NEWSポストセブン