「肺の役割は大きく2つあります。1つは空気を『吸って、吐く』こと。気管を広げて空気を取り入れると肺は膨らみ、吐くときは肺の周りの筋肉が収縮し、肺から押し出された空気が外に出る。
2つ目は間質で行われる酸素と二酸化炭素のガス交換です。血液中に酸素を取り込んで、不要になった二酸化炭素を体外に出す。この2つの機能によって、体の中を『換気』するのです」
その肺に問題が起これば、生命にかかわると上さんは続ける。
「人間が死ぬときは、呼吸ができないか、心臓が止まったときです。人間の臓器の中でも、『肺』は最も重要な組織なのです。がんと比べると、世間的には『肺炎』のイメージはそれほど深刻ではありませんが、医師の間では、肺炎とわかれば非常事態です」
たしかに、腸に異変があったとしても、すぐには死なないが、肺はそうはいかない。長く息を止めていられないからだ。すなわち、肺は命に直結する臓器なのである。
それほど大事な肺だが、ガス交換を担う部分の肺胞が壊れてしまうと、もう二度と元には戻らない。
人気番組『笑点』(日本テレビ系)の司会を務めていた落語家の桂歌丸さん(享年81)も、長年の喫煙によって肺胞が壊れるCOPD(慢性閉塞性肺疾患)という病気に侵され、2018年7月にこの世を去った。最期まで酸素吸入をしながら高座に上がる姿が記憶に残っている人も少なくないはずだ。
このような肺そのものの疾患だけでなく、ほかの病気から肺炎になることも少なからずある。東邦大学医療センター大橋病院教授で呼吸器内科医の松瀬厚人さんが話す。
「ほとんどの病気で、最後は肺炎になって亡くなります。たとえば、死因が『老衰』となっている場合も、実はうまくたんが出せないことで起きた『誤嚥性肺炎』だったりするケースがかなりあるのです。肺炎で亡くなるときは、体中の酸素が不足し、全身の臓器に異常が出ることによって『多機能不全』となり、死に至ります」