「何かとてつもなくヤバいことが起きている感じがしましたが、後の祭りでした。その時点ですでにハッカーは僕のアカウント名とパスワードを利用して、インスタを乗っ取っていたはずです。その後も一切、ログインできず、インスタの運営ガイドに従って様々なマニュアルを試してみても結果は好転しませんでした。コツコツと育ててきたインスタのアカウントを乗っ取られたショックで気がおかしくなりそうでした。一刻も早く認証バッジを獲得して人に自慢したかったことが猛烈に惨めで恥ずかしくなり、このまま黙ってインスタの世界から身を引こうとまで思い詰めました」(A氏)
ハッカーは、乗っ取ったアカウントに対して、「返してほしければ、〇〇しろ」と脅迫して金やヌード写真を要求したり、アカウントに投稿された写真や個人情報を盗んだりする目的で乗っ取りを行うケースもある。乗っ取ったアカウントに出会い系やアダルトサイト、激安商品の販売サイトや架空請求などに関する投稿を行い、フォロワーを特定のサイトに「誘導」することもよくある手口だ。
乗っ取りの危険があることはわかっているのに、どうして引っかかってしまうのか——考え抜いてたどり着いたA氏の結論は、「ハッカーは人間の欲につけこむ」ということだ。
「自分は絶対に大丈夫と思い込んでいましたが、今回の件で、人間は欲につけこまれるとこうもあっさり騙されてしまうことを、我が身をもって知りました。僕の場合は、認証バッジに目が眩んでしまったわけです。タラレバになってしまいますが、いろいろ検索した後、最後に『インスタ、認証バッジ、詐欺』という検索をしていれば、警鐘を鳴らすサイトを見つけていたはずです。身を引き締めて今後はもう一段、セキュリティの意識をあげようと思います」(A氏)
フィッシング詐欺はSNSだけでなく、Amazonや楽天などのネットショッピングのアカウントを乗っ取る際も使われる。クレジットカード情報や銀行情報を盗まれて、金銭的な実害を被ることもある。
インターネットの世界では古典的でよく知られた詐欺なのに、それでも被害がなくならないのは、それが人間の心理の隙を突いているからだ。「自分だけは大丈夫」と思っている人ほど、A氏の告白を心にとどめて、大切なSNSを乗っ取られないよう細心の注意を払う必要がある。
なおインスタグラムのホームページでは、アカウントの不正アクセスが疑われる場合の対処法を紹介している。実際に乗っ取り被害にあったと思われる場合は、そのページから通報してほしい。
●取材・文/池田道大(フリーライター)