では、義肢の進化の余地はどれほど残されているのだろうか? 義肢装具士として多くの障害者アスリートを担当する株式会社OSPO オキノスポーツ義肢装具の代表を務める沖野敦郎さんはこう言う。
「ブレード(板ばね)と呼ばれる競技用義足の湾曲した部分は、カーボンでできており、形は板状です。パラリンピックの義足の規定では、『電気などの動力源を用いること』と、『形状がコイルスプリング』の2点のみが禁止されていて、それ以外は自由。日常用の義足のように見た目の制約もないから、ブレードにカーボン以外の素材を用いたり、立体的に加工したり、改良の余地がまだまだあります」
パラスポーツの最高記録は道具のおかげか
ただし、だからといってアスリートの身体能力以上の力が発揮できるわけではない。沖野さんはこう注釈を入れる。
「ブレードによってバネが効いているわけではありませんから、アスリートの力が競技用義足によって高められるわけではないのです。あの湾曲した形状は、あくまで走りやすいバランスを考えてのもの。義肢装具士は、アスリートが持っている力の100%にいかに近づけられるかを目指す仕事なのです」(沖野さん)
とはいえ、「義足をつけているほうが有利なのではないか」という議論があることは事実だ。中距離走においては、義足のほうが消費するエネルギーが少なくなるため有利であるとする専門家もいる。義足を外して健足(自分の足)でケンケンしながら2m近くジャンプをする選手もいるが、「足がない方が、体が軽くなるので有利だ」という意見もある。
実際、日本の高校生の陸上大会では、全国高等学校体育連盟(高体連)の判断によって義足の選手が出場停止となった事例がある。