2008年、開業式典を終え日暮里・舎人ライナーに試乗する東京都の石原慎太郎知事(中央)ら関係者(時事通信フォト)
足立区にとって悲願だった日暮里・舎人ライナーは、その一方で開業目前まで沿線開発が進んでいなかった。そのため、日暮里・舎人ライナーを採算面で危ぶむ声もあった。
しかし、蓋を開けてみれば、前評判を大きく覆した。日暮里・舎人ライナーは、開業から年を追うごとに利用者数を伸ばしている。開業した2008年度が1786万人、2019年度は約3321万人。わずか12年で倍に近くまで利用者が増加。そうした数字を見れば、日暮里・舎人ライナーは公共交通として成功した部類に入るだろう。
それでも、足立区は利用者増を手放しで喜べない。なぜなら、利用者が急増したことで混雑を緩和しなければならないという新たな問題が発生しているからだ。
日暮里・舎人ライナーが開業すると、田んぼが広がる沿線は急速に宅地化。大型商業施設も次々にオープンした。そうした急速な開発によって、想定外の事態が勃発する。
「日暮里・舎人ライナーで、もっとも混雑する区間は赤土小学校駅→西日暮里駅間で約187パーセントです。朝のラッシュ時は、すでに始発駅となる見沼代親水公園駅で席が埋まり、西日暮里駅まで混雑する状態が続きます。途中駅の西新井西駅や江北駅からも多くの利用者が乗車しますから、日暮里駅に近づくにつれて混雑は激しくなります。そうした混雑が深刻化していることを問題と捉え、足立区は日暮里・舎人ライナーを運行する東京都に対して混雑の緩和対策を講じるように繰り返し要望してきました。区議会でも混雑緩和対策を議論し、都に対して意見書を出したこともあります」と話すのは、東京都足立区都市建設部交通対策課の担当者だ。
日暮里・舎人ライナーの利用者が増加した要因は、沿線にマンション多く立ち並ぶようになったことが大きい。それだけなら、区の人口増や地域活性化に貢献したと礼賛で終わっただろう。
想定外だったのは、都心へと通勤するサラリーマン世帯が多かったことだ。サラリーマンが多すぎたため、日暮里・舎人ライナーは朝のラッシュ時間帯に混雑を極めた。開業早々、日暮里・舎人ライナーは都内屈指の混雑路線へと早替りしてしまう。
先述した足立区のアンケート調査は、日暮里・舎人ライナーの混雑が放置できないレベルになっていることを示唆している。
これまで日暮里・舎人ライナーが、混雑対策をまったく講じていなかったわけではない。開業からわずか4か月後には、ダイヤ改正を実施。運転本数を増やして、混雑に対処した。しかし、運転本数を増やしても、混雑はいっこうに緩和する兆しを見せなかった。その後も運転本数を増やすダイヤ改正を繰り返したが、それ以上に利用者が増えている。
列車の運転本数を増やすには、車両そのものを増やさなければならない。朝ラッシュの運転本数を増やすため、東京都交通局は車両を増備。また、ラッシュ時間帯の利用者を少しでも分散するべく、始発時間を繰り上げてもいる。