経理担当の妻と相談した川島さんが手をつけたのはまず、借入金の「借り換え」だった。懇意にしていた銀行とは別の金融機関から借り換え、金利がかなり下がった。金融業界も、コロナの影響で動かない金を動かそうと、金利を下げているという情報をキャッチしたからだ。さらに……。
「スタッフのリモートワーク化も進み、思い切って事務所を解約しようとしたところ、大家さんに泣きつかれてしまいました。事務所をそのままにする代わりに、事務所を置いているマンションの別の部屋をスタッフ向けに格安で貸してくれるということになり、それならと契約を続行。元の家賃もかなり抑えられたし、スタッフの福利厚生にもなりました。仕事もぼちぼち戻りつつありますから、コロナは良いきっかけだったと思っています」(川島さん)
埼玉県内の居酒屋店店長・桂敏子さん(仮名・50代)もまた、コロナ禍を逆手に、うまく生き抜いている。
「お客さんは以前の7割くらいしか入らないけど、常連さんは来てくれるし、このタイミングでメニューの値上げをしました。普段なら文句言われるだろうけど、コロナだししょうがないねってなるんで(笑)」(桂さん)
飲食店にとっての値上げは、客足に大きく響くもの。よほどの事がない限り値上げはできなかったというが、コロナ禍は「よほどの事」そのもの。従前から値上げを考えていたこともあり、結果的にはちょうどよかったと打ち明ける。それだけではない。
「お店が休業したり潰れたりして、仕入れ先の問屋さんも相当経営が厳しくなっていたみたいで、格安で食材卸してくれるところが増えたんですよね。うちみたいにうまく回っている店とは長く契約したいって、特別にさらに値下げしてもらったりして。嬉しい誤算というか、コロナ様様かも」(桂さん)
このように、コロナ禍を前に絶望しているだけではなく、なんとかポジティブな「機会」として生かしてやろうと奮闘する人々もいる。取材した飲食店店主の中には「本当はきつくないのに、きついきついと言いまくっている」という人もいた。きついと言っておけば、客も同情的にみてくれるし、店に来てくれるというのだ。フェアかどうかはさておき、これもまた生き抜く術にはかわりない。行き詰っても、逃げてしまおう死んでしまおうと思うのではなく、まずは「生きる」と決め、そこから「どうやって生き延びるか」を考え、このコロナ禍を乗り越えていきたい。