公職選挙法の規定では、現金を受け取った方も罪に問われる。有罪となれば3年以下の懲役か禁固、または50万円以下の罰金が課される。実際には、選挙違反で懲役や禁錮などの実刑はなく、ほとんど執行猶予が付き、罰金刑でも地元の名士には痛くもかゆくもない金額だろう。しかし、怖いのは「公民権停止」だ。これは、罰金刑以上が確定した場合、選挙権も被選挙権も喪失するというもの。結果として議員の資格が無くなり失職するのだ。
実名が公表された政治家40人が受け取っていた金額はいずれも10万円を超えており、高額な人では元県議会議長は200万円、辞職した前三原市長は150万円を受け取っていた。通常、選挙違反事件で金を受け取った側が罪に問われる基準は「10万円」を超えるかどうか。本来なら40人は全員、起訴もしくは略式起訴で議員バッジを外さなければならなかったはずだが、どういうわけか全員不起訴となっている。
なぜ全員が不起訴になったのか。検察側は、「無理やり渡されて拒否できなかったり、返却したりした人もいた」「関係者全員を立件したら広島の政界が混乱する」などと説明しているが、実際は「公判で『買収だと思った』と証言するかわりに、罪には問わない」という裏取引があったのが本当のところだろう。
もっとも、今回の事件では、河井夫妻の処遇については東京地検特捜部が担当しているが、金を受け取った100人の処遇については広島地検の裁量ということになっていたらしい。だが、広島地検にはそもそも100人もの「容疑者」を処理できるほどの人手はない。「ターゲットは克行前法相で妻の案里はおまけ。地元議員はどうでもいい」(検察関係者)と話す検察側の事情も透けて見える。
つまり、辞職した5人は早まってしまっただけで、検察側の動向を見極めたうえで進退を判断しても良かったという見方もできる。だが、某県議の後援会会長は、「怪しい人物に、まさか金を貰ってないよなと聞いたがはぐらかされた。あれは貰っているな」とかねてより不信感を募らせていた。当たり前だが、地元の有権者は河井夫妻に対し憎悪と怒りを向け、受け取った100人には侮蔑の声を上げている。
ちなみに、金を受け取った40人の対応はさまざま。記者会見などで説明責任を果たし辞職した5人や、新聞・テレビの取材に顔出しで受け取ったことを認め、その上で「案里被告の参院選に絡んだ買収だと思った」と謝罪した議員、受け取りを認めたが「統一地方選の陣中見舞い(当選祝い)で政治献金と理解していた」と釈明した議員、「ヤバイ」と感じ返却した議員などだ。前述の通り、金を受け取った議員の大多数は公の場での説明を避けているが、今後、東京地裁の法廷に証人として引きずり出されることになる。
初公判があった25日、湯崎英彦広島県知事は記者会見で「それぞれ説明責任についてお考えになるだろう」と冷たく言い放った。