シャンパンを高く積んで大騒ぎをするホストクラブではなじみの光景もコロナで難しくなった
男女の価値観が時代とともに変化したためにホストクラブが激増した、と言えるのかもしれない。以前に比べれば確かに女性の社会進出も進み、経済的に自立、男性に依存しない女性が増えたのであれば、男と同じように接待される楽しみを求めてホスト遊びする女性がいるのも、自然なのかもしれない。ただ……。
「キャバクラを経費で落とす男はいても、ホストを経費で落とす女の会社員はいないように、その辺の価値観は根本的にはやっぱり変わっていない。男はほっといても夜の街に行くし夜の街へ行くことが仕事の延長のように扱われることすらあるが、基本的に女は行かないんです。だからあの手この手を使って呼ぶしかない、結果、不幸な事件が起きやすい」(西山さん)
コロナ禍におけるホストクラブ、キャバクラやクラブの状況を取材し、筆者も感じたことがあった。それは、前者に自治体からの休業要請などを無視して営業する店が少なくなかったのに対し、後者は比較的その要請に応じたり、感染対策を取っていた店が多かった、ということである。前者が「デタラメ」だった、とも言えるが、それ以上に悲しいまでの「必死さ」があったのである。売れっ子だったにも関わらず、コロナをきっかけにホストを辞めた室井さんが言う。
「キャバクラに行く男性よりホストに来る女性の絶対数が少ないのに店が増えたから、一人の女性に多くのお金を使ってもらわないとダメなんです。一人の女性客を何人ものホストで取り囲んで、おだて上げ、枯れ果てるまで金を使わせる。借金でも風俗でも、実家の親の資産を売ってでもいいから、ホストで使う金を作らせます。ホストも、そうまでしないと生きていけない。でも、これで誰が幸せになったかと言うと、誰も幸せになれていない。コロナで客がいなくなって、特定の客をホスト同士で取り合ったりする。もうこういうことから足を洗いたい、そう強く思ったんです」(室井さん)
昔のホストと今のホストの違い、それをズバリ言うのなら、前者はまだ「接客」の先に収益があったが、後者は収益のことしか考えない、ということかもしれない。場合によっては店に来た客を接客せず、いきなり脅して金を奪う。客イコール金、という価値観から、客の取り合いで暴行事件が発生することも珍しくない。
もちろん、今の全てのホストが、室井さんや西山さんが言うようなスタンスで仕事をやっているとは思わない。ただ筆者が取材した範囲では、二人の指摘は正しい面があると思えるし、ホストやその周りで、本当に幸せを感じていると話す人はほとんどいなかった。
「金の為に自分を含めた誰かが不幸になる仕事をあえて選ぶ必要はない、そういって店を辞めた後輩もいました。僕のように何年もこの世界で暮らして、ある程度の成功をしてしまった人間より、キャリアが浅い若い子の方が早く本当のことに気が付いていたのかもしれません。ホストの限界が見えていたのでしょう」(室井さん)
今までなんとなく、騙し騙しやってきたこと。いいのか悪いのかを考えず、ただ流されてやってきたこと。慣習にも似た「日常」、そして「価値観」が、すでに大きく変わっている。それはたぶん、ホストクラブや夜の街を取り巻く世界だけのことではない。今後、様々な面で私たちの前に現れるだろう。