人間の歌声が、気づけば機械の音声のようにも聴こえる「夜に駆ける」という楽曲について、著書『廃墟で歌う天使』(現代書館)でボーカロイド・初音ミクにいたる“歌うロボット”の系譜を哲学的な知見を踏まえて考察した学習院大学教授・遠藤薫氏は、次のように分析する。

「YOASOBIは、ボーカロイドプロデューサーとシンガーソングライターのユニットです。それは彼らの楽曲が機械と人間の相互に融合する境界領域にあることを暗示しています。とくに代表曲『夜に駆ける』では、物語の二人が夜へとダイブする結末に至りますが、その先は〈死〉ではなく、〈モノ〉たちの世界ではないでしょうか。〈モノ〉とは、ヒト=者(もの)であり、キカイ=物(もの)であり、情報=霊(もの)であり、それらが渾然一体となった何かです。

 彼らは人間から〈モノ〉へと変化(へんげ)することで世界そのものとなります。サビで歌声が機械音声(ボカロ)化していくのはその変容のプロセスを表現しています。それはいま、DX(デジタル・トランスフォーメーション)のなかで、すべての人間たちが〈モノ〉(デジタルマシン)化——ポストヒューマン化していくリアリティと同期します。駆けていく先にあるのは、安らぎなのか、恐怖なのか、新生なのか」

 インターネットが普及し、多くの人々がスマートフォンを片手に容易に情報を取得できるようになった昨今。高度にデジタル化された領域は、もはや仕事や生活における環境の一部として身の回りを覆い尽くすように存在している。YOASOBIが多くのリスナーを惹きつけるのは、彼らの音楽がこうした同時代のリアリティと深いところで響き合っているからなのかもしれない。

●取材・文/細田成嗣(HEW)

関連記事

トピックス

俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
【本人が語った「大事な存在」】水上恒司(26)、初ロマンスは“マギー似”の年上女性 直撃に「別に隠すようなことではないと思うので」と堂々宣言
NEWSポストセブン
佳子さまの「多幸感メイク」驚きの声(2025年11月9日、写真/JMPA)
《最旬の「多幸感メイク」に驚きの声》佳子さま、“ふわふわ清楚ワンピース”の装いでメイクの印象を一変させていた 美容関係者は「この“すっぴん風”はまさに今季のトレンド」と称賛
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が真剣交際していることがわかった
水上恒司(26)『中学聖日記』から7年…マギー似美女と“庶民派スーパーデート” 取材に「はい、お付き合いしてます」とコメント
NEWSポストセブン
ラオスに滞在中の天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《ラオスの民族衣装も》愛子さま、動きやすいパンツスタイルでご視察 現地に寄り添うお気持ちあふれるコーデ
NEWSポストセブン
AIの技術で遭遇リスクを可視化する「クマ遭遇AI予測マップ」
AIを活用し遭遇リスクを可視化した「クマ遭遇AI予測マップ」から見えてくるもの 遭遇確率が高いのは「山と川に挟まれた住宅周辺」、“過疎化”も重要なキーワードに
週刊ポスト
韓国のガールズグループ「AFTERSCHOOL」の元メンバーで女優のNANA(Instagramより)
《ほっそりボディに浮き出た「腹筋」に再注目》韓国アイドル・NANA、自宅に侵入した強盗犯の男を“返り討ち”に…男が病院に搬送  
NEWSポストセブン
ラオスに到着された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月17日、撮影/横田紋子)
《初の外国公式訪問》愛子さま、母・雅子さまの“定番”デザインでラオスに到着 ペールブルーのセットアップに白の縁取りでメリハリのある上品な装い
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(AFLO/時事通信フォト)
「“穴持たず”を見つけたら、ためらわずに撃て」猟師の間で言われている「冬眠しない熊」との対峙方法《戦前の日本で発生した恐怖のヒグマ事件》
NEWSポストセブン
ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン