人間の歌声が、気づけば機械の音声のようにも聴こえる「夜に駆ける」という楽曲について、著書『廃墟で歌う天使』(現代書館)でボーカロイド・初音ミクにいたる“歌うロボット”の系譜を哲学的な知見を踏まえて考察した学習院大学教授・遠藤薫氏は、次のように分析する。

「YOASOBIは、ボーカロイドプロデューサーとシンガーソングライターのユニットです。それは彼らの楽曲が機械と人間の相互に融合する境界領域にあることを暗示しています。とくに代表曲『夜に駆ける』では、物語の二人が夜へとダイブする結末に至りますが、その先は〈死〉ではなく、〈モノ〉たちの世界ではないでしょうか。〈モノ〉とは、ヒト=者(もの)であり、キカイ=物(もの)であり、情報=霊(もの)であり、それらが渾然一体となった何かです。

 彼らは人間から〈モノ〉へと変化(へんげ)することで世界そのものとなります。サビで歌声が機械音声(ボカロ)化していくのはその変容のプロセスを表現しています。それはいま、DX(デジタル・トランスフォーメーション)のなかで、すべての人間たちが〈モノ〉(デジタルマシン)化——ポストヒューマン化していくリアリティと同期します。駆けていく先にあるのは、安らぎなのか、恐怖なのか、新生なのか」

 インターネットが普及し、多くの人々がスマートフォンを片手に容易に情報を取得できるようになった昨今。高度にデジタル化された領域は、もはや仕事や生活における環境の一部として身の回りを覆い尽くすように存在している。YOASOBIが多くのリスナーを惹きつけるのは、彼らの音楽がこうした同時代のリアリティと深いところで響き合っているからなのかもしれない。

●取材・文/細田成嗣(HEW)

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