とはいえ、『エール』はあくまでもフィクションである。6月に放送されたスピンオフ・ストーリーで幽霊が登場するなど、物語を面白く盛り上げるために必ずしもすべてが史実にもとづいているわけではない。そのような娯楽作品で、軍歌をめぐる史実の描かれ方に注目が集まるのはなぜなのだろうか。辻田氏は次のように指摘する。

「たしかに『エール』はフィクションです。ただ、これまで細かい史実をたくみに取り込んできました。それなのに、軍歌の部分だけ架空の話に逃げ込めば、批判の対象になるでしょう。

 それは、かつて古関に軍歌の作曲を依頼したこともあるNHKの問題意識にもつながります。古関自身は、同時代の多くの音楽家と異なり、自作の軍歌を隠し立てしませんでした。ですから、戦時下の曲もほかの音楽と同様に扱ってもらいたいはずだと思います。そして『エール』の評価も、この戦時下の内容いかんで大きく左右されるはずです」

 放送再開後に戦時下をどう描くのかが、『エール』という作品全体の評価を左右することになりそうだ。なお、ドラマの公式ホームページでは、不遇の時代を乗り越えた主人公がヒット曲を次々に生み出すようになったあとの物語について、次のように予告している。

〈しかし時代は戦争へと突入し、裕一は軍の要請で戦時歌謡を作曲することに。自分が作った歌を歌って戦死していく若者の姿に心を痛める裕一……。戦後、混乱の中でも復興に向かう日本。古山夫妻は、傷ついた人々の心を音楽の力で勇気づけようと、新しい時代の音楽を奏でていく──〉(『エール』公式ホームページより)

 音楽はたしかに傷ついた人々の心を癒す“エール”になる。だが同時に、戦時下で人々を戦争へと駆り立てる原動力にもなる。“軍歌の覇王”の足跡を当たり障りのないフィクションに改変してしまうことは、こうした音楽の危うい二面性から目を背けることにもなるのではないだろうか。

●取材・文/細田成嗣(HEW)

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