市場を変えることから、新しい恋は始まる
話は一転するが、パートナーを探している世の女性には、この椿のような“弱い男”に注目してほしい。私がこれまで、周囲の適齢期と言われる女性から聞き続けてきた悩みは「いいと思った男性は、だいたい既婚者」である。でもその悩みの根源を辿ると、自分の理想の条件を低くしなかったり、それから競争率の高い恋愛市場ばかりを狙っていたりする傾向が強い。マッチングアプリだってそんなに代わる代わる登録者も現れない。この悩みを解消するのではないかと期待できるのが、椿タイプの“弱い男”の存在だ。
昭和、平成、令和と3つの元号を眺めて感じるのは、男女問わず働くことに対するポテンシャルが年々アップしていること。分かりやすくいうとIT系企業の立ち上げ社長や、個人事業主といった群れない働き方が増えつつあり、企業に頼る生き方が減っている。オタク化して、自分のために働く男がめっちゃ増えていると私は思うのだ。周囲を見渡しても、仕事は完璧なのにパートナーがいない男性は……かなり存在している。……ターゲット層はここだ……!
ドラマ『電車男』(2005年)の主人公・山田剛司(伊藤淳史)や、『逃げるは恥だが役に立つ』(2018年)の津崎平匡(星野源)をイメージしてほしい。オタク系の男性は女性と関わることが少なく、誰かを好きになったらひたすら真面目に自分に尽くしてくれる(はず)。令和の今、仕事オタクの“弱い男”は(たぶん)量産されていて、チャンスは自分が気づかないうちに広がっているのではないか。
つまり、ほんの少し視座を変えることで椿のような“弱い男”はいる、と認識をして今週末は居酒屋にでも出かけてほしい。ビジュアルが横浜流星という条件だけはクリアできないと思うけど、そこそこの働きマンであなたの登場を待つ“弱い男”はマジでいる。今までは、つい求めがちな一般的な男のモテ条件に惑わされていただけなのだ。
さて『わたどう』。そろそろ七桜が身バレをして、物語は後半へ進む。姑の嫁いびり、親の仇討ちに、息子の恋心など全ての展開が唐突に押し寄せてくるのを「トンチキだなあ」と楽しんでいる。そう、この作品は真剣なトンチキだからこそ魅力的なのだ。そこにふと見えた、新モテ要素に注目しながら椿の弱さを引き続き見守りたい。
【プロフィール】こばやし・ひさの/静岡県浜松市出身のエッセイスト、ライター、編集者、クリエイティブディレクター。これまでに企画、編集、執筆を手がけた単行本は100冊以上。女性の意識改革をライトに提案したエッセイ『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ刊)が好評発売中。