そして8月20日を過ぎると、首相の側近議員たちまで、「休みをとってほしい」と半ば公然と病気を認めるようになる。
安倍晋三は道半ばにして病に倒れ、断腸の思いで退陣せざるを得なかった。深刻な病状リークは、そんな安倍から菅への政権禅譲のシナリオに欠かせなかったのかもしれない。去りゆく首相の病状はいまだに判然としないが、それでいて世間は同情し、新たな宰相は高い支持率を得て船出する。
すべては菅首相誕生に向けた筋書きだ。これまで菅との確執が囁かれていた今井が政権禅譲に力を貸したのは、自らのコロナの失政に加え、岸田文雄では石破茂に勝てないという「総理の意向」が働いたのであろう。菅もそれを利用した。
しかし、いま一度立ち止まってよく考えてもらいたい。ことは国難のさなかに国の舵取りを投げ出した、という極めて重大案件なのである。仮にサラリーマンが会社に長期病欠を申請しようとすれば、医師の診断書が必要になる。本来、医師団が記者会見を開いて病状を説明すべきではないか。安倍自身、第一次政権で辞任した際には医師を伴って会見をしている。
菅新政権にとって世の同情が集まり、コロナ対応のボロが出ない今のうちに総選挙に打って出たほうが得策。そんな不潔な思惑まで透けて見える。
【PROFILE】森功(もり・いさお)/ノンフィクション作家。1961年福岡県生まれ。岡山大学文学部卒。新潮社勤務などを経て2003年よりフリーに。2016年に『総理の影 菅義偉の正体』を上梓。他の著書に『官邸官僚 安倍一強を支えた側近政治の罪』『ならずもの 井上雅博伝 ヤフーを作った男』など。
※週刊ポスト2020年10月2日号