兄の岸部一徳
私は当時乗っていた、「小ベンツ」こと190E(つまり300万円台)のことを言っていたのですが、その頃、芸能界随一のハイブランドコレクターであり、古美術商もなさっていて、高級車にも一家言もっていらした岸部さんは、「そこはもっと詳しく言わなくちゃ」とスルーしてはくださいませんでした(苦笑)。
その頃は、奥様の小緒理さん(2007年逝去)がたびたびスタジオにいらしていて、私がエルメスのバーキンを初めて見たのは小緒理さんのそれ。そうした“お宝”だらけのご自宅に行かせていただいたこともありました。
番組を降板した理由は、自己破産。本番中に“借金取り”から電話がかかってきたり、彼らがスタジオに押しかけてきたとも聞きました。岸部さんからの申し出に、日本テレビは一度は慰留したとか。なぜなら、MC・岸部四郎の才能と人気をよくわかっていたからです。
特に、お勉強されている様子を見せるわけではないのに、どんな情報についても本当によくご存じで、ふんわりしているのに短くわかりやすい言葉でハッキリとモノ言う岸部さんについては、起用した日本テレビのプロデューサーが長年、後輩たちから尊敬されていたほど素晴らしいものだったのです。だから晩年、『情報ライブ ミヤネ屋』(同)が「困ったときの岸部さん」的に、イジるVTRを20本近く制作していたときは、少々複雑な気持ちでした。
それでも、自虐ネタを交えつつ、昔と変わらぬ飄々とした雰囲気で、お茶の間を煙に巻いていた岸部さん。ありがたいことに、2013年12月、ザ・タイガースが44年ぶりにオリジナルメンバーで行った復活ツアーも見させていただいた私は、ステージ上でこの上なく幸せそうな表情をしている岸部さんのお顔を確認することもできました。
元祖・マルチタレントであり、独特の個性で昭和、平成、令和を生きた岸部四郎さん、さようなら。そして、ありがとうございました。
■構成/山田美保子
『踊る!さんま御殿!!』(日本テレビ系)などを手がける放送作家。コメンテーターとして『ドデスカ!』(メ~テレ)、『アップ!』(同)、『バイキング』(フジテレビ系)、『サンデージャポン』(TBS系)に出演中。CM各賞の審査員も務める。
※女性セブン2020年10月8日号