樹木さんは植松さんに、裕也さんについてこんなふうに話していたという。
「とんでもない人間なんだけど、なかに一筋ピュアなものがある。私はそれだけあれば充分なんです」
2017年1月、前年に見つかった骨への転移にピンポイント照射を受ける。これが樹木さんにとって最後の治療になった。
「このときは10日間ぐらい治療を受けてもらいました。まだ治療の途中だったのですが、希林さんのお仕事がとても忙しかったので、一度東京に帰ることになったんです。私はもうちょっと治療を続けたかったので“また来てくださいね”とお話ししたんですが、“しばらく仕事をしてきます”とおっしゃって。次に来てくださったのは1年2か月後でした」(植松さん)
この間、樹木さんは『モリのいる場所』『万引き家族』『日日是好日』『エリカ38』、そして遺作となった『命みじかし、恋せよ乙女』と、時間を惜しむように精力的に映画出演をこなした。そして2018年3月にPET-CT検査を受けたときには、がんが全身の骨という骨や臓器にも広がり、植松さんが治療できる状態ではなくなっていた。少しでもがんに効けばと、植松さんはホルモン剤を樹木さんの自宅に送ったが、樹木さんから返ってきたのは「ホルモン剤を使わないで様子を見ます」という言葉だった。
樹木さんが受けた放射線治療は、合わせて31か所。最後は東京の自宅で「子供や孫に自分の死ぬところを見せたい」と語り、それを体現した。
冒頭のスピーチを樹木さんはこう締めくくっている。
「すごい病気になると、すごく面白いことが日常にあります。ですから、楽しんで面白がって。それで自分をよく見て、笑えるような私たちになっていきたいと思います」
植松さんは、10年にもおよんだ樹木さんとの治療を振り返り、最後にこう話した。
「希林さんは治療に関しても、自分でこうすると決めたことに、非常に正直に生きていたと思います。常に自分の体と対話していた。人生、どうしても乗り越えられないことってありますよね。そんなときに、あるがままに受け入れていたのが希林さんでした。私も彼女から人としてたくさんのことを学びました。
特に印象深いのは『おごらず、他人と比べず、面白がって、平気に生きればいい』という彼女の言葉。私にとって、とてもしっくりくる言葉なので、時々思い返しながら日々患者さんの治療と向き合っています」(植松さん)
主治医によって明かされた、最期まで自分らしく生き抜いた樹木さんの姿。三回忌に、彼女の言葉を改めて噛みしめてみたい。
※女性セブン2020年10月8日号