国内

なぜ日本は対立社会になったか わかりやすく語ることの弊害

反安倍政権のデモでは激しい言葉も並んだ(時事通信フォト)

反安倍政権のデモでは激しい言葉も並んだ(時事通信フォト)

 戦後75年の節目を迎えてなお、先の戦争の歴史認識をめぐって多くの対立が生まれている。様々な意見が飛び交うこの問題とどう向き合っていくべきか。去る8月22日、著書『ルポ百田尚樹現象 愛国ポピュリズムの現在地』で平成の右派論客の変遷を辿ったノンフィクションライター・石戸諭氏と、共著に『「歴史認識」とは何か 対立の構図を超えて』があるジャーナリスト・江川紹子氏が議論を交わした。

 * * *
石戸諭(以下、石戸):僕は著書『ルポ百田尚樹現象』で、SNSなどで中国や韓国に対する過激な発言を繰り返す作家・百田尚樹さんと、1990年代に歴史教科書の慰安婦に関する記述をめぐって運動を行なった「新しい歴史教科書をつくる会」を取材しました。そこで感じたのは、1990年代に比べて現代のほうが、歴史認識をめぐる議論が“記号的”になっていることです。

 例えば、つくる会は慰安婦問題に関して、日本軍による「強制連行」はなかった、というロジックを展開して運動を展開しています。慰安婦問題については、彼らが展開した強制連行の有無という論点ではなく、現在では国際的な戦時性暴力の問題であると捉え直されるようになっていますが、大切な点は、つくる会は最初にロジックを作り上げて、それに基づく運動を行なっていたことです。そして特に西尾幹二さんの著作には強い情念を感じます。歴史観、国家観を問い直すという意志があるのです。

 ところが、百田さんをはじめ今のSNSでは、ロジックよりも「韓国はおかしい」といった思いが先行しているように感じられます。

江川紹子(以下、江川):彼らの思考の枠組みには似ているところがあると思います。つまり、自分の思いや直観といったものを中心に物事を見て、それが容易に正邪の判断、正しい・間違っているという判断に転換してしまう点です。それでも、旧世代ではまだそこに「理屈」が伴っていましたが、現在では「思い」が全てになってしまっている。

「思い」が正邪の判断に転換すると、自分の思いや考えは正しくて、相手の思いや考えは間違っているという二元論的な発想になり、モノゴトを単純化しがちです。これは歴史認識の問題だけではありません。原発事故のときに、反原発を訴える中で「命か電気か」という二者択一の言い方がされましたが、今のコロナ禍でも「命か経済か」という表現で、同じ状況が起きています。こうした発想方法は非常に危うさを秘めています。

石戸:自分たちの考えが正しくて、それ以外は間違っている。それだけでなく、自分たちの共鳴する意見以外は知的に劣っているという見方まで広がっています。

江川:正しいことを言っている自分たちは知的で、そうでない間違ったことを言う人は反知性だと見下すようなやり方は、しっぺ返しを受けると思います。そういう方は、「百田尚樹現象」は、ある種、合わせ鏡というか、映し鏡だと思ってみる視点も必要だと私は思います。

関連キーワード

関連記事

トピックス

スタッフの対応に批判が殺到する事態に(Xより)
《“シュシュ女”ネット上の誹謗中傷は名誉毀損に》K-POPフェスで韓流ファンの怒りをかった女性スタッフに同情の声…運営会社は「勤務態度に不適切な点があった」
NEWSポストセブン
現行犯逮捕された戸田容疑者と、血痕が残っていた犯行直後の現場(時事通信社/読者提供)
《動機は教育虐待》「3階建ての立派な豪邸にアパート経営も…」戸田佳孝容疑者(43)の“裕福な家庭環境”【東大前駅・無差別切りつけ】
NEWSポストセブン
未成年の少女を誘拐したうえ、わいせつな行為に及んだとして、無職・高橋光夢容疑者(22)らが逮捕(知人提供/時事通信フォト)
《10代前半少女に不同意わいせつ》「薬漬けで吐血して…」「女装してパキッてた」“トー横のパンダ”高橋光夢容疑者(22)の“危ない素顔”
NEWSポストセブン
露出を増やしつつある沢尻エリカ(時事通信フォト)
《過激な作品において魅力的な存在》沢尻エリカ、“半裸写真”公開で見えた映像作品復帰への道筋
週刊ポスト
“激太り”していた水原一平被告(AFLO/backgrid)
《またしても出頭延期》水原一平被告、気になる“妻の居場所”  昨年8月には“まさかのツーショット”も…「子どもを持ち、小さな式を挙げたい」吐露していた思い
NEWSポストセブン
初めて万博を視察された愛子さま(2025年5月9日、撮影/JMPA)
《万博ご視察ファッション》愛子さま、雅子さまの“万博コーデ”を思わせるブルーグレーのパンツスタイル
NEWSポストセブン
憔悴した様子の永野芽郁
《憔悴の近影》永野芽郁、頬がこけ、目元を腫らして…移動時には“厳戒態勢”「事務所車までダッシュ」【田中圭との不倫報道】
NEWSポストセブン
現行犯逮捕された戸田容疑者と、血痕が残っていた犯行直後の現場(左・時事通信社)
【東大前駅・無差別殺人未遂】「この辺りはみんなエリート。ご近所の親は大学教授、子供は旧帝大…」“教育虐待”訴える戸田佳孝容疑者(43)が育った“インテリ住宅街”
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
【エッセイ連載再開】元フジテレビアナ・渡邊渚さんが綴る近況「目に見えない恐怖と戦う日々」「夢と現実の区別がつかなくなる」
NEWSポストセブン
『続・続・最後から二番目の恋』が放送中
ドラマ『続・続・最後から二番目の恋』も大好評 いつまでのその言動に注目が集まる小泉今日子のカッコよさ
女性セブン
田中圭
《田中圭が永野芽郁を招き入れた“別宅”》奥さんや子どもに迷惑かけられない…深酒後は元タレント妻に配慮して自宅回避の“家庭事情”
NEWSポストセブン
ニセコアンヌプリは世界的なスキー場のある山としても知られている(時事通信フォト)
《じわじわ広がる中国バブル崩壊》建設費用踏み倒し、訪日観光客大量キャンセルに「泣くしかない」人たち「日本の話なんかどうでもいいと言われて唖然とした」
NEWSポストセブン