池上:中国と対立すると、それぞれの経済にとってもけっしていいことではないですよね?
ヴァルマ大使:そうとも言えますが、良い面もあります。インドの立場から見た良い面は、中国からの輸入品を国産品に置き換える機会になるということです。この輸入品などの製品は、高度な技術が使われているわけではないので、インドでも簡単に生産することができます。今後、インドでも製造業が発展すると考えられます。「禍転じて福となす」という言葉のようなものです。ただ、中国との貿易は、互いに補完性があるので、続けていきます。
池上:中国に対抗するという意味でも、日本とインドの関係をさらに強化しようという動きがありますね。やはり、インドとしても日本と関係を強化しようというのは、中国を意識しているという部分もあるのでしょうか?
ヴァルマ大使:そうとは言えません。日本とインドの関係は、二国間の関係で成り立っています。「自由で開かれたインド太平洋」という政策は、今日に始まったことではありません。
インドと日本は戦略的関係、経済関係、金融関係を強化しようとしていますが、これは外交においては普通のことです。必ずしも中国がターゲットということではありません。しかし、中国が特定の分野で、国際的な慣行と相入れない国とみなされることはあるでしょう。例えば海上航行の自由などの面です。インドも日本も同じ国際規範に従っています。もし、国際法に従わない国があるとしたら、それは日印が協力して守っているものに反することは確かです。
【プロフィール】いけがみ・あきら(ジャーナリスト)/1950年長野生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、1973年にNHK入局。報道局社会部記者などを経て、1994年4月から11年間にわたり『週刊こどもニュース』のお父さん役を務め、わかりやすい解説で人気を集める。2005年にNHKを退職し、フリージャーナリストに。名城大学教授、東京工業大学特命教授。愛知学院大学、立教大学、信州大学、日本大学、順天堂大学、東京大学、関西学院大学などでも講義する。主な著書に『伝える力』『知らないと恥をかく世界の大問題』など。近著に『池上彰の世界の見方 インド』『池上彰のまんがでわかる現代史 欧米』がある。
◆構成/川上康介、写真/五十嵐美弥