ライフ

壇蜜 岡本太郎の大作『重工業』に「ネギですか!?」

岡本太郎1949年作『重工業』は『夜』(1947年作)と並ぶ対極主義の代表作

岡本太郎1949年作『重工業』は『夜』(1947年作)と並ぶ対極主義の代表作

 美術史家で明治学院大学教授の山下裕二氏とタレントの壇蜜という、日本美術応援団の2人が、日本の美術館の常設展を巡るシリーズ。今回2人は「川崎市岡本太郎美術館」を訪れた。

壇蜜:川崎市岡本太郎美術館へ入ってほどなく目に飛び込んでくる大作が、『重工業』です。赤い歯車、取り囲む人間の輪、そしてその下には……ネギですか!?

山下:異なる要素が不協和音を発しながら同じ画面に共生し、そこから生まれる反発を芸術に昇華するという「対極主義」を太郎は提唱し、それを具現化したのがこの作品です。戦後まだ日も浅く、人間の輪は時代の渦に翻弄される人々の姿のようにも感じられます。

壇蜜:一方で創造している人もいれば、集まって騒いでいるような人たちもいて見るほどに発見があります。強い色彩も一般にイメージされる太郎さんの絵です。

山下:この頃から大爆発していくのですが、当時はこんな原色でギラギラした絵はなく、“色音痴だ”などと散々酷評もされました。

壇蜜:新しすぎるあまりに。

山下:太郎自身も〝既存のものをすべてぶち壊してやるんだ〟と、血気盛んだったのです。その背景には約5年の戦争体験も色濃く影響しているのでしょう。中国大陸の自動車部隊の一兵卒として、上官からは毎日しごかれていたそうです。

壇蜜:環境で価値観が変わることは起こりえますね。

山下:戦地では絵を描くこともあった。『眠る兵士』は45年の作品で、《於・祁陽》と終戦を迎えるに至った中国の地名も入っています。優れたデッサン力が発揮され、抽象的な絵画から受ける印象とはひと味違う太郎の芸術性が垣間見えます。

◇川崎市岡本太郎美術館
【住所】神奈川県川崎市多摩区枡形7-1-5生田緑地内
【開館時間】9時30分~17時(最終入館16時30分)
【休館日】月曜(祝日の場合は開館)、祝日の翌日(土日にあたる場合は開館)、年末年始、臨時休館あり
【入館料】一般900円※展覧会ごとに異なる

【プロフィール】
やました・ゆうじ/1958年生まれ。明治学院大学教授。美術史家。『日本美術全集』(全20巻、小学館刊)監修を務める、日本美術応援団長。

だん・みつ/1980年生まれ。タレント。グラビア、執筆、芝居、バラエティほか幅広く活躍。近著に『結婚してみることにした。壇蜜ダイアリー2』(文藝春秋刊)。

◆撮影/太田真三 取材・文/渡部美也

※週刊ポスト2020年10月16・23日号

【参考資料】1945年『眠る兵士』岡本太郎記念館蔵(通常は展示されていない)

1945年『眠る兵士』岡本太郎記念館蔵(通常は展示されていない)

美術館は緑豊かな場所に

美術館は緑豊かな場所に

関連キーワード

関連記事

トピックス

全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる
JR東日本はクマとの衝突で71件の輸送障害 保線作業員はクマ撃退スプレーを携行、出没状況を踏まえて忌避剤を散布 貨物列車と衝突すれば首都圏の生活に大きな影響出るか
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
(写真/イメージマート)
《全国で被害多発》クマ騒動とコロナ騒動の共通点 “新しい恐怖”にどう立ち向かえばいいのか【石原壮一郎氏が解説】
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
”クマ研究の権威”である坪田敏男教授がインタビューに答えた
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
NEWSポストセブン
“ポケットイン”で話題になった劉勁松アジア局長(時事通信フォト)
“両手ポケットイン”中国外交官が「ニコニコ笑顔」で「握手のため自ら手を差し伸べた」“意外な相手”とは【日中局長会議の動画がアジアで波紋】
NEWSポストセブン
11月10日、金屏風の前で婚約会見を行った歌舞伎俳優の中村橋之助と元乃木坂46で女優の能條愛未
《中村橋之助&能條愛未が歌舞伎界で12年9か月ぶりの金屏風会見》三田寛子、藤原紀香、前田愛…一家を支える完璧で最強な“梨園の妻”たち
女性セブン
土曜プレミアムで放送される映画『テルマエ・ロマエ』
《一連の騒動の影響は?》フジテレビ特番枠『土曜プレミアム』に異変 かつての映画枠『ゴールデン洋画劇場』に回帰か、それとも苦渋の選択か 
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン