芸能

二階堂ふみ 朝ドラ『エール』での役作りには本当に唸らされる

NHK連続テレビ小説『エール』で夫婦役を演じる窪田正孝と二階堂ふみ

 視聴者の心を掴むという点において、時間はさほど大きな要素ではないのかもしれない。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。

 * * *
 何かが違う。これまでの朝ドラとは何かが。いったいどこが違うのでしょうか? NHK朝ドラといえば月曜~金曜の朝8時から15分間、生活の中での楽しみを提供してきました。人情の機微、ちょっとしんみりしたり笑いがこぼれたり。肯定感が土台となった良作であれば、それでいい。大作映画ではないし深い感動を求めるのは筋違い──多くの人がそう思い込んできたのかもしれません。

 しかし、今放送中の『エール』はこれまでと何かが違う。たとえ15分という短い時間であっても、1時間2時間も視聴したような深淵さを感じる時がある。見終わってからシーンを思い出したり、余韻を味わったり。まるで映画にも匹敵する奥行きのある世界を見たような……。

 もちろんこれまで優れた朝ドラはたくさんありました。実在の人物の波乱万丈の人生を描いた『カーネーション』や『あさが来た』等は視聴者に大きな満足感を与えました。しかし、今回ほど静かにじわりじわりと視聴者の心に分け入り、染み入ってくるようなテイストは初めてではないでしょうか?

 オープニングの独特な演出も話題になりました。第88話(10月14日)~第91話(19日)、そして第95話(23日)と、冒頭の主題歌が流れずにいきなり物語に入った。タイトルバックも主題歌もない日が続くと、それはひとつのトーンというか独特な空気となります。視聴者にとっても初めての経験で、ドラマ内の戦時中~敗戦時の重苦しい空気を正面から共有する結果になりました。

 その演出意図について脚本・演出の吉田照幸監督は、「尺の問題です。撮れ高がたくさんあったので、どうしても切れませんでした」と説明。そう、「絶対に使わなくてはならない」「編集して切ることができない」と監督に思わせるような切迫した演技を役者たちが見せつけた、ということではないでしょうか。

 主人公・古山裕一を演じる窪田正孝さんの激しい慟哭。自分の作った音楽が人々を戦争へと駆り立てた、という自覚。負い目。後悔。苦しみ。「音楽が憎い」という裕一の叫びが視聴者の胸にも突き刺さってくる。重たい沈鬱の中にいる夫を静かに受け止める妻・音の姿も、実に印象的でした。音役の二階堂ふみさんの演技は揺るぎなく、セリフのない間でもその横顔はたくさんのことを物語っていました。

 一つの山場を迎えた10月21日93話。静かでBGMもほとんどない。どれくらい静かかと言えば……曲が書けなくなってしまった裕一に対して、「少しは食べないと」と夜食を運んできた音。

「曲が書けない、どうしても書けない」と裕一が言う。

「もう、自分を許してあげて」と音。

「いいのか」と問う裕一。

 音はただ静かに裕一の前髪に触り、左右に少し分け、頬に触り、抱きしめる。3分ほどの間にセリフはたったの二言、三言。しかし、裕一が少しずつ再生していくプロセスが確かに見えた。

関連記事

トピックス

第一子を出産した真美子さんと大谷
《デコピンと「ゆったり服」でお出かけ》真美子さん、大谷翔平が明かした「病院通い」に心配の声も…出産直前に見られていた「ポルシェで元気そうな外出」
NEWSポストセブン
花の井役を演じる小芝風花(NHKホームページより)
“清純派女優”小芝風花が大河『べらぼう』で“妖艶な遊女”役を好演 中国在住の実父に「異国まで届く評判」聞いた
NEWSポストセブン
2000年代からテレビや雑誌の辛口ファッションチェックで広く知られるようになったドン小西さん
《今夏の再婚を告白》デザイナー・ドン小西さんが選んだお相手は元妻「今年70になります」「やっぱり中身だなあ」
NEWSポストセブン
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
「王子と寝ろ」突然のバス事故で“余命4日”ののち命を絶った女性…告発していた“エプスタイン事件”【11歳を含む未成年者250名以上が被害に】
NEWSポストセブン
人気シンガーソングライターの優里(優里の公式HPより)
《音にクレームが》歌手・優里に“ご近所トラブル”「リフォーム後に騒音が…」本人が直撃に語った真相「音を気にかけてはいるんですけど」
NEWSポストセブン
ナンバープレートを折り曲げ集団走行する「旧車會」=[福岡県警提供](時事通信フォト)
《各地で増える”暴走”》駐車場を勝手に旧車會の集合場所とされた飲食店主「100台以上も…他のお客さんが入って来られん」と怒り
NEWSポストセブン
世界中を旅するロリィタモデルの夕霧わかなさん。身長は133センチ
「毎朝起きると服が血まみれに…」身長133センチのロリィタモデル・夕霧わかな(25)が明かした“アトピーの苦悩”、「両親は可哀想と写真を残していない」オシャレを諦めた過去
NEWSポストセブン
キャンパスライフをスタートされた悠仁さま
《5000字超えの意見書が…》悠仁さまが通う筑波大で警備強化、出入り口封鎖も 一般学生からは「厳しすぎて不便」との声
週刊ポスト
事実上の戦力外となった前田健太(時事通信フォト)
《あなたとの旅はエキサイティングだった》戦力外の前田健太投手、元女性アナの年上妻と別居生活 すでに帰国の「惜別SNS英文」の意味深
NEWSポストセブン
エライザちゃんと両親。Facebookには「どうか、みんな、ベイビーを強く抱きしめ、側から離れないでくれ。この悲しみは耐えられない」と綴っている(SNSより)
「この悲しみは耐えられない」生後7か月の赤ちゃんを愛犬・ピットブルが咬殺 議論を呼ぶ“スイッチが入ると相手が死ぬまで離さない”危険性【米国で悲劇、国内の規制は?】
NEWSポストセブン
1992年にデビューし、アイドルグループ「みるく」のメンバーとして活躍したそめやゆきこさん
《熱湯風呂に9回入湯》元アイドル・そめやゆきこ「初海外の現地でセクシー写真集を撮ると言われて…」両親に勘当され抱え続けた“トラウマ”の過去
NEWSポストセブン
左:激太り後の水原被告、右:
【激太りの近況】水原一平氏が収監延期で滞在続ける「家賃2400ドル新居」での“優雅な生活”「テスラに乗り、2匹の愛犬とともに」
NEWSポストセブン