「慶応卒」に目の敵にされる
銀行の本部には、経営戦略の立案や金融商品の開発といった頭脳労働を行う部署がある。そのような部署で「デスクワーク」をやらせれば、彼らがうつ病を発症するまで疲弊することも無かったかもしれない。しかし、銀行のメイン業務はあくまでも法人融資や個人に保険や投資信託を買ってもらうといった営業だ。営業の現場を知っておかなければ戦略の立てようもないため、後に本部に引き上げるにしても3~4年は支店で営業を経験させられることが多い。
K氏は、営業成績が極端に悪かったわけではないが、東大卒というだけで「要求される数字が人よりも大きくなる」と不満を口にした。その数字を達成できず、上司に個室に呼び出され「短大出の彼があれだけの成績を上げているのに、天下の東大を出ている君は何でパッとしないの?」と2時間近く詰められたこともあった。上司は、万が一にもパワハラで訴えられないように、大声でどう喝したり机をバンバン叩いたりなどは絶対にしないが、個室での一対一の面談で、静かな声でプライドを丁寧に傷つけてくるそうだ。
「『半沢直樹』のパワハラ演出なんてファンタジー。実際はもっと陰湿で砂漠のようなところだよ。今でも思い出すだけで死にたくなる」
“普通の成績”しか上げられていないのに、周りからは何かにつけて「東大卒なんてすごいね」「賢いから、私たちなんかあっという間に追いつかれちゃうね」などと言われてしまう。相手に嫌みのつもりは無かったのかもしれないが、これも大きな負担だった。
そんな状況に追い打ちをかけたのが、慶應卒の先輩から受けたいじめだった。無視をされたり、目が合うと舌打ちをされたり、些細なミスを何時間も責められたり…名前ではなく「東大」と呼ばれることもあった。
「慶應卒の先輩にとって東大卒の俺の学歴は目障りだったんだと思う。偏見だと言われるだろうけど、『私大の雄』にとって東大は目の敵なんだ。銀行は、東大生が大勢就職すると言っても100人規模の支店内に同窓は数人もいない。ノルマがきつくて部署のみんながストレスを溜めているから、俺の学歴がそのはけ口になったんだろうね」