少し前までは一車線だけの歩道もない小さな橋だった。新しい橋とあわせて二つで一つの「緑橋」となった。
「市の発表見ました? これ」
男性がスマホで見せてくれた日野市の発表は「中日本高速道路株式会社の発表のとおり、通常時の安全性には支障はないと判断しております」だった。NEXCO中日本は「通常時の安全性には支障はありません」「高速道路を安心してご利用いただくため、速やかに再施工、調査を進めてまいります」としている。NEXCO中日本側からすれば高速道路の安全のみを考えるのは致し方ないが、この橋は高速路の橋というわけではない。橋は市道で、橋を渡っているのは一般道の車であり、バイクや自転車、そして歩行者だ。市の直接的な責任ではないとはいえ、NEXCO中日本が言うならそうなのだろうという態度でそのまま市民に伝える日野市の姿勢は解せない。施工したばかりだというのに橋台のひびは1.6m。他にも小さなひびがある。本当に「安心」なのか。
「元請けの手抜き工事なんですね。下請けが告発したとか」
こんな橋、どうせいっぱいあるよ
それにしても、あるはずの鉄筋8本はどこに消えたのか。NEXCO中日本の払いが悪いのか、元請けの払いが悪いのか、払いが悪いから下請けが手抜きをしたのか。あるいは指示があったのか。事件は損害賠償請求に発展しそうだが、元請け、下請けの手抜きだけでなく、NEXCO中日本は本当に必要な金を払ったのか、この三者の間に何もしていない中抜きという名の「泥棒」がいるのではないか。近年の日本のものづくりは、ものをつくる人たちに金が届く前に、ものを作らない「泥棒」が掠め取っていく構図が常態化している。万引きが泥棒であるように、中抜きも泥棒である。アベノマスク、 特別定額給付金、持続化給付金で暗躍したその「泥棒」たちが問題になったことは記憶に新しい。
「何かあったらどうするのかね、命の問題なのに」
声をかけた別の初老の女性が顔をしかめる。建築、土木といったインフラの手抜きの恐ろしさは人命に直結することだ。同じ中央道、9人が亡くなった8年前の笹子トンネル天井板落下事故は老朽化が主因だが、間接的には12年間ボルトの状態を確認しないという点検作業の手抜きも遠因にあった。24時間休まず多数に利用されるインフラ、日々現場で尽力する人々を思えばミスをするなとは言えないが、彼らと関係ない連中の中抜きによる事故で死者が出たら言語道断だろう。