「リアル1回分」のコストで大量集客

 ポイントなのは、無観客の配信ライブで集客力があれば、こうしたコストが「1回限り」で済むということだ。リアルのライブで100万人動員しようと思ったら、5万人の会場を20回埋めなくてはならない。『日経エンタテインメント!』によれば、2018年11月にスタートした嵐のライブツアーでは、全50公演で254万人を動員したという。50回ライブをやれば人件費や機材費用、会場費、警備費用なども膨れ上がるが、配信ならばすべて1回分で済むのだ。

 嵐は、今年の大晦日にも、活動休止前の生配信ライブを予定している。キャパシティに上限のないオンライン配信だから、大きな売り上げになるに違いない。

 ただ、オンライン配信で儲かるのは嵐のような超のつく人気者の場合であり、すべての公演がそこまでの大きな利益を生むわけではない。武井氏によると、2006年から始まったニューヨーク・メトロポリタン歌劇場の舞台映像の配信事業「Live in HD」の利益率はやっと10%程度だという。この数字は映像制作費と映像売上の収支であり、舞台制作費は含まれていないので、かなり厳しいと言わざるを得ない。

 利益率が上がらないのは、視聴に耐えうる配信のクオリティにするために、映画製作費並みの多額のコストが舞台制作費に加えてかかるためだ。そのようにコストをかけても利益を出せるのは、トップ・オブ・トップの人気アーティストのみ。音楽にせよ、演劇にせよ、演者にとってオンライン配信は“勝ち筋”の事業である。

「普段、チケットが取りづらいような公演がオンラインで視聴できるとなれば、観客が使うお金はトップアーティストが“総取り”するようになる。グローバル市場では特にそうなるので、ライブ公演に安心して行ける世の中にならないと日本のクラシック業界の危機は続くでしょう。映像や録音しかないとなったら、クラシックの場合、多くの楽曲は世界一流の音楽家が音源や映像をすでに販売していますし、実はYoutubeなどに無料で見られるものもたくさんあるからです」(武井氏)

 日本ですでに集客力があるか、世界で勝負できるアーティストにとっては、オンライン公演は時間と空間の制約を超えてファンを集め、稼ぐための光明に違いない。では、その他大勢のアーティストに未来はないのか——いやそうではない、というのが武井氏の見解だ。

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