コロナ収束後もオンラインは残る
「オンライン公演だけでは儲けられない“負け筋”であったとしてもプロモーションツールとしての効果はあります。今までのファンとのつながりも維持できます。こういう音楽、演劇の世界があるのだと広く知ってもらうこともできます。例えば、これまで会場には来られなかった、家を出にくい育児中や介護中の人、会場が遠方で行くことができなかった人も視聴できる。そういう人が『次はリアルで見たい』とファンになってくれることは十分あり得ます。
もうひとつは自らを世界に売り込むツールになるということ。すでにクラシック音楽の世界ではオンラインだけで完結する良いコンクールもありますし、YouTubeを見た海外のプロデューサーからオファーが来ることもあります。そうして国を越えて世界の舞台に羽ばたいた人も実際にいます」(武井氏)
オンライン配信というツールは、たいして儲からないからとか、“リアル”が再開されたからといって、すぐに捨て去るべきものではない、と武井氏は言う。
「どんなに配信のクオリティを高めても、リアルとオンラインは音の品質やライブ感に大きな違いがある。でも、テレビがあってもラジオが生き残っているように、まったく違う体験が得られるものとしてコロナ収束後も併存するでしょう。
アーティスト側は、この半年で録音・録画技術や機材などの新しいスキルとツールを得たのだから、手放すのはもったいない。ただ、ネットは誰が見るかわかりません。やる以上は世界の視聴者に『これは面白い、ライブで見てみたい』と思ってもらえるように心がけて制作していくことが大事なのではないかと思います」(武井氏)
少しずつ有観客の公演が戻りつつあるが、ここ数週間の感染者数の増加でまた無観客に逆戻りすることも十分あり得る。まともに“リアル”を体感できない今は、まずはオンライン公演で楽しみ、配信で見つけたお気に入りのアーティストの公演が有観客で再開される日を待ちたいものだ。
●取材・文/岸川貴文(フリーライター)