白酒版は“太って血色のいい”死神に愛嬌があり、全体に笑いが多い演出。死神に呪文を教わって医者になった男は、通常の「大儲けしたが遊山旅で一文無しになり、以降は死神が全部枕元にいて」という道筋を経ず、ただ金に目がくらんで枕元にいる死神を“布団ひっくり返し”で追い払う。その手段が「布団ごと病人を持ち上げて“かごめかごめ”を唄いながらグルグル回して遊ぶふり」なのもバカバカしくて素敵だ。
禁を破った男は蝋燭の洞窟に連れて行かれ「お前は病人と寿命を交換したんだ」と言われるが、「助けてくれよ! お前に呪文を教わったって閻魔に言うぞ! いいのかよ」と死神を脅して燃えさしの蝋燭を手に入れる。無事に火を移し替えたと思ったらクシャミで吹き消しそうになって「あぶねぇ、あぶねぇ」というフェイント。小三治の『死神』を知る落語ファンから笑いが起こる。
命拾いした男。だが次の瞬間、死神に「よかったな。あっ、その蝋、熱いから気を付けな」と言われ、「え? アチチッ!」と蝋燭を放り出してしまうという皮肉な結末。“笑える『死神』”に相応しい、白酒ならではの楽しいサゲだ。
【プロフィール】
広瀬和生(ひろせ・かずお)/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。2020年1月に最新刊『21世紀落語史』(光文社新書)を出版するなど著書多数。
※週刊ポスト2020年12月11日号