振り返ると、僕が子供の頃の紅白というのは、その年に活躍した歌手が紅白に分かれて歌の勝負をする、年に一度の大舞台でした。僕が所属する日本作曲家協会主催の日本レコード大賞とともに、今でも年末を代表する音楽イベントだと思いますが、最近は歌そのものよりもバラエティ色の強い演出のほうに力が入っているようにも感じられます。
たとえば『鳥取砂丘』(2003年)以降、僕の楽曲を紅白で歌ってくれている水森かおりはここ数年、イリュージョンという演出で歌の途中で消えてしまったりする。さらに3コーラスの歌を1コーラス半にされてしまうと、歌が置き去りにされたようで少々複雑な気持ちになりますね。
手前味噌になりますが、レコード大賞のほうが音楽を重視した演出だという自負もあります。とはいえ、紅白もレコ大も1年を締めくくる国民的行事。これからも末永く続くことを願ってやみません。
【プロフィール】
弦哲也(げん・てつや)/1947年9月25日生まれ、千葉県出身。1965年に歌手デビューし、1986年から作曲活動に専念。2017年より日本作曲家協会会長を務める。音楽生活55周年記念アルバム『旅のあとさき』発売中。
※週刊ポスト2021年1月1・8日号