野老さんをはじめとした中堅社員は、会社のメイン業務をこなしつつ、こちらのプロジェクトチームの面倒まで見なければならず、猫の手も借りたい程。それこそ深刻な「人不足」に陥っているが「人余り」に対処しなければならないという矛盾に陥っているという。
「コンプライアンス推進室に、最近だと流行りの『DX(デジタルトランスフォーメーション)準備室』でしょ、あとは業務改革準備本部、他なんかあったっけ……」
関わる業務やプロジェクトを指折り数えて苦笑いを浮かべるのは、都内のテレビ局勤務・橋口義弘さん(仮名・30代)。よく言われているように、テレビ局のほとんどで放送事業による収益は右肩下がり。内部留保で不動産を取得したり、イベントを行って収益を上げたり、ネットなどテレビ以外の場所でコンテンツ販売をするなどして、どうにか「黒字経営」を維持しているのが現実だ。テレビ局社員といえば、狭き門をくぐり抜けた、憧れの高給サラリーマン……だが、テレビ番組をつくる以外はやはり素人でもある。
「放送以外でマネタイズが見込める事業は、若手とか、外部から入ってきた人たちが一生懸命やっている。一方で、今となっては金ばかり食う番組製作の現場には、テレビしか作れないベテランがゾロゾロ。もちろん、彼らが制作の最前線にいると、それだけで予算が取られてADすらつけられなくなるので、いろんな名目で部署を作って配置転換をして現場を引退させ、肩書きを与えてなんとかその場を凌いでいますが、予算にも限界がありますよ」(橋口さん)
すでに社内では、どこにどんな部署が立ち上がったか、正確に把握しているものはいないのではないかと言われるほど。そして、製作の現場に特化した職能を持つ彼らは、人件費の問題で異動させられても、適した仕事が見つからないことがほとんどだ。ジョブチェンジへのフォローをするよりも人件費削減を速やかに行うことが優先された結果、各階に設置された、窓際ならぬ「社内失業者部屋」を点々とする会社員生活を送っている。その立場に開き直り悠々自適と過ごす者もいる一方、勝手に現場へ姿を現しては若手にダメ出しをして鬱憤を晴らす迷惑上司が発生するなど、問題も続出しているのだという。
「彼らは給料も学歴も高いから、プライドも死ぬほど高い。今更、ネットが金になるからネットのことを勉強してと言っても、それは下請けとか若手にやらせろ、ですからね。いつまでも神輿の上にいられると思うなよ、と密かに睨んでいます」(橋口さん)