「悪い奴がやっていること(非合法なコンテンツ製作)だから、こちらは何をしてもいい、完全グレーゾーンの海を、自在に泳ぎ回っているような気分。恐怖心は消え、もっと収益が欲しいと思うようになりました」
ところが、二人目の子供も産まれ、妻と新居について具体的に話し合っていた幸せな日々は、一気に暗転する。ある朝、仕事に行くため玄関を開けようとしたところ、扉の向こうに人の気配がした。覗き穴越しに見えたのは、5~6人の男の姿。警察だった。
「警察はすでに逮捕状まで持ってきていた。自分に疑いがかけられているなんて、全く気が付きませんでした。どこで足がついたのかさえ見当もつかない。驚いた妻が小さな下の子を抱えて出てきたので、警察の方が気を利かせて、私だけを車に連れて行ってくれました。なんというか、ああ終わったな、と身体中の力が抜けた感じ。ついさっきまで幸せの絶頂にいたのに、空虚な感じ」
福田さんの逮捕容疑は著作権法違反。運営するサイトに、第三者が権利を持つ女優の写真を無断で掲載していたことだと刑事に説明されたが、取調べでは主に、海外のサーバーを利用したサイト運営に関係することばかり聞かれた。警察が知りたいのは逮捕理由とは違っていたので「別件逮捕」と呼んでもよいものだった。だが、福田さんは一切抵抗することなく、全てを洗いざらいしゃべった。今考えれば、必要以上にしゃべったかもしれないと思うが、後悔はない。
「ふと気がついたんですよね、金は儲かったけど、私自身は何も産み出していない。全部うそ、偽りで得た金。詐欺師と一緒です。妻や子供たちはその汚れた金を使って、給料よりよい生活をしている。やめたくてもやめられない、逮捕くらいされないと、嘘をつき続けるしかなかったんです」
逮捕から数日ですぐに保釈されたものの、妻と子供はすでに家を出ていた。社宅は安価で便利だったが、こういうことが起きてしまうと、自分の家だとは思えないほど居心地が悪い。
「自宅には上司からの手紙が届いていて、事情を説明しに来い、クビは間違いないと書かれていました。妻とも電話で話しましたが、娘がショックを受けていて、もう二度と一緒に暮らしたくないと。この時娘はすでに中学生。思春期に傷つけてしまったんです。全てを失ったと悟った瞬間でした」