ちさ子が生まれ育った高嶋家。罵声と同じくらい笑い声も途切れない家庭だった(写真/本人提供)
「悪性」も「劣性」もわが子にかける言葉としてはかなり過激だが、高嶋家にはさらに強烈な女性が存在した。
《父も、母方の祖母に「ごくつぶし」ってよく言われて「この性悪女」って返していました。そういうやりとりを、言葉遊びとしてとらえるような家族だったんでしょう。良くも悪くも、常に暴言が飛び交っていた家でした》
朝は早起きして書をたしなみ、夜はドストエフスキーを読む。そんなインテリの祖母だったが、舌鋒はすこぶる鋭かった。白黒はっきりつけたがる性格で、グレーゾーンは一切なし。病院に行ったときも、「自分の体を預けるんだから、それぐらい知っておかなくちゃ」という理由で「先生はどちらの医大を出ていらっしゃるんですか?」と尋ね、家族をタジタジとさせたこともあった。その一方で、一本筋の通った凜とした女性でもあり、ちさ子にさまざまな“教え”を説いた。
「母に負けず劣らず祖母もまたインパクトの強い人でした。印象に残っているのは、『容姿を褒められるのは、中身をけなされているのと同じ。褒めるところがないから容姿を褒める。かわいいとかきれいとかは褒め言葉ではない。人間的におもしろい、賢いという褒められ方をしなければいけない』という言葉。
だけどその一方で、仕事に行ったり友達の家に行ったりして家に帰って来ると、なぜかいつも、『あなたきれいねとか、かわいいねとか言われた?』と聞かれる。
『言われた』と言うと、この“人間性を~”というお説教をされるけれど、『言われない』と言うと『あなたのことをかわいいと言わないなんて、目がおかしいわね』なんて言ってくる。非常に矛盾したことを言うバアサンでした(笑い)」
この祖母ありて、ちさ子あり、なのだ。
【プロフィール】
高嶋ちさ子(たかしま・ちさこ)/1968年東京都生まれ。6才でヴァイオリンを始める。桐朋学園大学を経て、1994年イェール大学音楽学部大学院修士課程アーティスト・ディプロマコースを卒業。『めざましクラシックス』『12人のヴァイオリニスト』などのプロデュースを手がける傍ら、テレビやラジオなどでも活躍。
撮影/加藤千絵
※女性セブン2021年1月21日号
