ライフ

「私たちは元気なのに…」コロナ禍の福島県・岳温泉 旅館女将の葛藤

女将・二瓶明子さんがコロナ禍で改めて感じたこととは

女将・二瓶明子さんがコロナ禍で改めて感じたこととは

 新型コロナウイルスの感染拡大は、観光や宿泊業にも大打撃を与えている。その混乱の中、葛藤しながらも覚悟を持って女将を続けている福島県・岳温泉「お宿 花かんざし」の二瓶明子さん(41)が、思いを打ち明けた。

 * * *
 コロナの話題が出始めた頃は、遠い中国の話で岳温泉には関係ないだろうと思っていました。それがついには福島県から営業自粛要請が出るまでになり、苦渋の思いで休業を決めました。3日後のご予約のお客様から順次、私からお電話で休業をお伝えしました。

 宿泊業はこちらから出向くことはできません。お客様にお越しいただいてこそ成立する仕事です。それまでたくさん努力をしてご予約を頂戴し、ようやく来ていただけるのに。温泉は変わらず湧いて、私たちは元気一杯なのに。でも、こちらから断わらなければならない。温泉街全体が真っ暗になって、その分、星が綺麗で、その星を眺めながら悔しい思いをしていました。

 お客様からは励ましのお言葉をたくさんいただきました。茨城の常連のお馴染み様は「元気を出して」と、しじみを送ってくださり、スタッフといただきました。本当に嬉しかったです。

 私は旅館の娘として生まれ育ちました。東京の大学に進学して、そのまま東京のホテルで働いていましたが、実家の経営が厳しかったので地元に戻り、旅館を継ぐことにしました。

「花かんざし」の社長としての転機は東日本大震災でした。宿が避難所だった時期もあり、再開しても旅館としてやっていけるか不安でした。でも「家も家族もみんな津波に流されちゃった。人生をやり直すために、心をリセットしに温泉に来ました」という女性のお客様の話を聞いた時に、人生の節目として当館を選んでくれたことの重大さを感じ、中途半端な気持ちで旅館をやってはいけないと自覚しました。それから女将を名乗るようになりました。

「いらっしゃいませ」とお客様をお迎えして、荷物を持って「お寛ぎくださいませ」とお声をかける。そんな当たり前のことを大切にしていきたいとコロナ禍で改めて感じています。

■岳温泉 お宿 花かんざし
【住所】福島県二本松市岳温泉1-104
【料金】1人1泊/2万500円~。(*旅館の宿泊料は1月の平日、2名1室利用・2食付の設定(消費税・入湯税込み))

*二瓶明子女将のロングインタビューを収録した山崎まゆみ氏の新刊『女将は見た 温泉旅館の表と裏』(文藝春秋刊)が発売中。

撮影/佐藤敏和 取材・文/山崎まゆみ

※週刊ポスト2021年1月15・22日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

割れた窓ガラス
「『ドン!』といきなり大きく速い揺れ」「3.11より怖かった」青森震度6強でドンキは休業・ツリー散乱・バリバリに割れたガラス…取材班が見た「現地のリアル」【青森県東方沖地震】
NEWSポストセブン
前橋市議会で退職が認められ、報道陣の取材に応じる小川晶市長(時事通信フォト)
《前橋・ラブホ通い詰め問題》「これは小川晶前市長の遺言」市幹部男性X氏が停職6か月で依願退職へ、市長選へ向け自民に危機感「いまも想像以上に小川さん支持が強い」
NEWSポストセブン
3年前に離婚していた穴井夕子とプロゴルァーの横田真一選手(Instagram/時事通信フォト)
《ゴルフ・横田真一プロと2年前に離婚》穴井夕子が明かしていた「夫婦ゲンカ中の夫への不満」と“家庭内別居”
NEWSポストセブン
二刀流かDHか、先発かリリーフか?
【大谷翔平のWBCでの“起用法”どれが正解か?】安全策なら「日本ラウンド出場せず、決勝ラウンドのみDHで出場」、WBCが「オープン戦での調整登板の代わり」になる可能性も
週刊ポスト
高市首相の発言で中国がエスカレート(時事通信フォト)
【中国軍機がレーダー照射も】高市発言で中国がエスカレート アメリカのスタンスは? 「曖昧戦略は終焉」「日米台で連携強化」の指摘も
NEWSポストセブン
テレビ復帰は困難との見方も強い国分太一(時事通信フォト)
元TOKIO・国分太一、地上波復帰は困難でもキャンプ趣味を活かしてYouTubeで復帰するシナリオも 「参戦すればキャンプYouTuberの人気の構図が一変する可能性」
週刊ポスト
世代交代へ(元横綱・大乃国)
《熾烈な相撲協会理事選》元横綱・大乃国の芝田山親方が勇退で八角理事長“一強体制”へ 2年先を見据えた次期理事長をめぐる争いも激化へ
週刊ポスト
2011年に放送が開始された『ヒルナンデス!!』(HPより/時事通信フォト)
《日テレ広報が回答》ナンチャン続投『ヒルナンデス!』打ち切り報道を完全否定「終了の予定ない」、終了説を一蹴した日テレの“ウラ事情”
NEWSポストセブン
青森県東方沖地震を受けての中国の反応は…(時事通信フォト)
《完全な失敗に終わるに違いない》最大震度6強・青森県東方沖地震、発生後の「在日中国大使館」公式Xでのポスト内容が波紋拡げる、注目される台湾総統の“対照的な対応”
NEWSポストセブン
安福久美子容疑者(69)の高場悟さんに対する”執着”が事件につながった(左:共同通信)
《名古屋主婦殺害》「あの時は振ってごめんねって会話ができるかなと…」安福久美子容疑者が美奈子さんを“土曜の昼”に襲撃したワケ…夫・悟さんが語っていた「離婚と養育費の話」
NEWSポストセブン
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
週刊ポスト
優勝パレードでは終始寄り添っていた真美子夫人と大谷翔平選手(キルステン・ワトソンさんのInstagramより)
《大谷翔平がWBC出場表明》真美子さん、佐々木朗希の妻にアドバイスか「東京ラウンドのタイミングで顔出ししてみたら?」 日本での“奥様会デビュー”計画
女性セブン