2020年3月、ユニクロ、ベトナム2号店を首都ハノイにオープン(EPA=時事)

2020年3月、ユニクロはベトナム2号店を首都ハノイにオープンした(EPA=時事)

 ファムさんの店の売り上げもコロナ禍によってかなり落ち込んでいたが、仕事がないベトナム人を雇い入れたり、知人の日本人を頼っては、同胞に仕事がないか、聞いてまわった。それでも食うに困ったベトナム人は後をたたない。正月を静かに過ごせと言われても、金も食べ物もないという同胞達がかなりの数いることに気がついたという。

「食べ物がない人は、お店に来て、タダで食べてもらった。本当は国へ帰りたいけど、帰るお金もないし、コロナで帰れない。それはみんな一緒。私はお店も家もあるし、少しはお金もある。日本のお正月、仕事も食べ物もない人たちと一緒に、お店で過ごしました」(ファムさん)

 助け合うことで、犯罪などに走る同胞が減れば、というファムさんの思い。中には、涙を流して喜ぶ同胞もいたというから、在日ベトナム人の置かれた苦境を改めて思い知らされたという。

 しかし、すべての在日ベトナム人がファムさんのような「兄貴」に支えてもらえるわけではない。どうしても仕事がない、食べ物がない、という人達も当然いる。彼らはいかにして「日本の正月」を過ごしていたのか。

「年末のセール、そして初売りはなんでも安いです。化粧品とかお菓子、一番人気は『ユニクロ』。たくさん買って、ベトナムで売る」

 日本語学校に通いながら、飲食店でアルバイトをしていた千葉県在住のベトナム人・グェンさん(20代)も、コロナの影響で仕事がほとんど無くなった。携帯電話を違法に複数契約したり、同胞女性を風俗店に斡旋するなど法律に触れる仕事に手を出す仲間もいて、グェンさんも心が揺らいだ事があったと打ち明けるが、同居するベトナム人の彼女に諌められた。

「だからベトナム人はダメだと思われる、そう言われました。でも本当に食べ物もお金もない。豚や鶏を盗むのも絶対だめ。だから、日本の商品をベトナムに送ってお金を稼ぎます。このやり方、日本人は嫌いだと知っていますが、仕方がない。犯罪ではないので、許して欲しい」(グェンさん)

 グェンさんは年末年始、首都圏の「ユニクロ」を回れるだけ周り、特にベトナムで人気だという「起毛パーカ」を数百着購入。それを何回にも分けてベトナムで待つ仲間に送るのだという。ベトナムの首都・ホーチミンにはユニクロの店舗もあるが、商品は人気で手に入りづらいし、グェンさんの故郷は、ホーチミンから遠く離れた田舎のため、地元ではユニクロ製品が飛ぶように売れるのだという。

「ベトナムは暑いと思うでしょうが、冬は寒い。だからパーカがたくさん売れる。みんな欲しい」(グェンさん)

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