前出の横浜市の60代男性の場合も血液中の酸素濃度は正常値より大幅に低く、入院相当の値だったが、担当者との電話で男性の応答に問題はなかったため、県は機械の誤測定と判断して経過観察としていた。
「新型コロナ感染症ではハッピー・ハイポキシアの患者が多い。急死の原因は心臓発作や脳卒中もありますが、多くはハッピー・ハイポキシアの状態から急激に肺炎が進行した可能性が高い」(前出・讃井医師)
この症状は、昨年、米ウォールストリートジャーナル紙(5月11日付)がいち早く報じ、同紙が「ハッピー・ハイポキシア」と命名。8月1日には、著名な呼吸生理学の研究者であるマーチン・トビン氏らの研究チームが、米国胸部学会(ATS)の学会誌に論文を発表したことも相まって、米国では広く認知されているという。
「論文にはいくつかの新型コロナ患者の症例が出ていますが、58歳の男性患者の例では、血液中の酸素濃度は人工呼吸器やECMO(体外式膜型人工肺)を使わねばならないほど低かったにもかかわらず、息切れなどの呼吸困難の症状はまったく見られなかった。平然とスマホで会話をしていたというのです」(前出・木田医師)
自覚症状がないとはいえ、血液中の酸素が不足しているため、身体は酸素を求め、無意識に呼吸は激しくなっている。
「大きな呼吸や速い呼吸を続けてしまうと、肺を傷つけ、肺炎の進行を早めてしまう。運良く助かったとしても後遺症として記憶力や注意力などの認知機能の低下、うつやPTSDの症状が起きうる」(前出・讃井医師)
※週刊ポスト2021年1月29日号