角居調教師とキセキ(ジャパンカップのパドック)

角居調教師とキセキ(ジャパンカップのパドック)

 数ある周回競技の中で、右回りがあるのは競馬だけです。陸上競技はもちろん、競輪、オート、競艇はすべて左回り。京都や阪神もパドックは左回りです。

 馬はウサギなどとは違って、左右の脚の動きが対称ではなく、どちらかの脚を前に出した体勢で走ります。左脚が前に出ていれば左手前、右足が前ならば右手前ということです。利き脚を前に出したほうがよりスピードが出るので、レースの勝負どころとなる最後の直線では、利き脚を手前にして走ります。VTRなどをじっくり見てみると、どちらが利き脚なのかがわかりますが、キセキのように左右どちら手前でも同じように走れる馬もいます。

 しかしレースの間中ずっと同じ手前で走ると疲弊してきてスピードが落ちます。だからレースの間、何度か手前を替えつつ、最後の直線で得意な手前になればいい。手前をスムーズに替えられる馬が「器用な馬」と言われるわけです。よくデビュー前の馬を評するときに「やわらかい」という褒め言葉を使いますが、これは手前替えがスムーズにできそうだという意味も含まれています。

 左回りの競馬場のコーナーを回るときは、当然左手前で回らなければならない。右手前だと外側に膨らむようになるのでブレーキをかけるようになってしまうからです。右利きの馬でもコーナーを左手前で走り、直線に入ってから右手前に替えるわけです。コーナーではどの馬もスピードを落とさざるを得ないので、右利きでもそれほど差は出ないといわれています。

 逆に左利きの馬はコーナーを得意の左手前で回るのはいいでしょうが、長い直線もそのまま左手前で走り切れるかどうか疑問です。一度右手前に替えて、さらに勝負所で左手前に替えたいところです。左回りの競馬場は、東京、新潟、中京といずれも直前が長いので、もう一度手前を替えて、最後のスパートに懸けられます。

 ウオッカは10勝のうち6勝が東京競馬場です。ダービーを勝った後、宝塚記念、秋華賞、有馬記念では結果が出ませんでした。やはり左回りが得意だったのです。

 アメリカの競馬場はすべて左回りなので調教の時に手前の替え方を教えますが、日本やヨーロッパではそこまでやっていません。角居厩舎でもあまりうるさく言うことはありませんでした。手前を替える練習は本来なら周回馬場でゆっくりのスピードでも替えられるように教え込みたいのですが、難易度が高く、追い切りの時、コーナーに入る前と、コーナーを回って直線に入った時に替えるよう促して確認するぐらいです。

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