自分の価値観は絶対ではない

 視聴者から「これからの子どもたちにはどんな能力・資質が必要でしょうか」という質問が来た。

 ぼくは、「本を読む力が必要だ」と答えた。たとえば、鈴木さんは、ブルセラショップにパンツを売っていたとき、カバンの中には遠藤周作の『沈黙』が入っていたという。本当は『沈黙』だったかどうかわからない。とにかく、本を持ち歩いていたようだ。

 どんな生き方をしていても、何かつかまれるものがあることが大事だと思う。

 鈴木さんも、読書を親からすすめられている。

「親からやれと言われたことが3つだけあります。それは本を読むこと、英語を話せるようになること、友だちを作ること。この3つは、自分が信じている価値観が絶対ではないということを知るためのものなんです。結局、子どもに必要なものは、それなんですね」

 コロナ時代のパートナーシップの在り方についてどう思うか、という質問もあった。これに対して、ぼくが「触りたい、抱きしめたいと思うことは大事」と話すと、横から鈴木さんが「触りたいですか」とチョッカイを出してきた。

 普段のフィールドではないだけに、異種格闘技戦のような気分になったが、かえって自由に話すことができたような気がしている。実に楽しい時間だった。

 新しい年になった。コロナ禍、「おめでとう」という晴れやかな気分ではないが、価値大転換時代のなかで選択肢を狭めないためにも、今年はせめて鎌田らしくない生き方をしてみようと考えている。

【プロフィール】
鎌田實(かまた・みのる)/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。著書に、『人間の値打ち』『忖度バカ』など多数。イラクや福島の子どもを支援するJIM-NETのチョコ募金(https://www.jim-net.org/choco/)活動も。

※週刊ポスト2021年1月29日号

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