トランプ氏の強みは知名度だけではない。大統領選挙を通じて、何千万、何億という携帯電話やメールアドレスのリストを持っているのである。それらはすべてトランプ支持者だから、そこにダイレクトにアプローチすれば、視聴者の獲得は容易だ。こんな有益な顧客リストは、ビジネス界にはそうそうない。
ニュースコンテンツの制作にはノウハウと人材が必要だが、それも問題ない。民主党政権の誕生で、保守系メディアは冬の時代だ。経営の思わしくない保守系メディアを買収するには最高のタイミングである。トランプ氏には、大統領選後に集めた寄付金が200億円以上あり、その大半はまだ使っていないと思われる。資金は潤沢なのだ。FOXはじめ、大手からも多くのタレントが流出してくるだろう。トランプ氏と親しかったものの、政権交代によって出番が激減しているかつてのFOXのエース、ショーン・ハニティ氏は有力な候補になるはずだ。
もう一人忘れてはならない人物がいる。トランプ氏は退任当日、元主席戦略官で、寄付金の私的流用で訴追されていた側近、スティーブン・バノン氏に恩赦を与えた。バノン氏はゴールドマン・サックス副社長を務めたビジネスマンであり、ハリウッド映画のプロデューサーや極右サイトの設立などを経験し、メディア・エンターテインメント事業にも明るい。日本を含む世界各国で右派ポピュリズム運動を支援し、「自分は右派ポピュリズムのインフラになる」と宣言している人物だ。
世論の反対が大きかったバノン氏の恩赦に踏み切ったのは、トランプ氏が構想するメディア事業に不可欠な人材だったからだろう。トランプ陣営が保守系メディアを買収し、バノン氏やハニティ氏がそれに加わることがあれば、トランプ氏が「戻ってくる」日は近い。