2020年5月29日には、新型コロナウイルス感染症対策に奮闘する医師や看護師などの医療従事者らに敬意と感謝の気持ちを示すため航空自衛隊・曲技飛行チーム「ブルーインパルス」が飛んだ(時事通信フォト)

2020年5月29日には、新型コロナウイルス感染症対策に奮闘する医師や看護師などの医療従事者らに敬意と感謝の気持ちを示すため航空自衛隊・曲技飛行チーム「ブルーインパルス」が飛んだ(時事通信フォト)

「院長直々に『情けなくないのか』と叱られ、看護師の上司からは『貰うもん(給料)もらってるんだから』とやはり嫌味を言われました。感染したスタッフには、減給を匂わせたり、無給の休暇をとるよう強いられたという人もいます。数人はそのまま辞めましたが、残った元感染者のスタッフは、検査結果が陰性になると即、現場に戻りました」(横田さん)

 同僚に聞いたところによると、クラスターが発生して以降も、病院内の数カ所を業者が消毒しただけで、それ以外は通常通りに運営されていたという。ただ、その時点で従事できるスタッフは全体の半分ほどまでに減っていた。残ったスタッフたちは近くの民宿に宿泊するなどし、休みはほぼなし、睡眠時間が1日3時間ほどという過酷な状況下で働き、なんとか「病院崩壊」させぬよう、乗り切ったのだという。

「院長はこれを美談にして、あちこち触れ回っていますが、実態は全然違います。元々、感染症に特化した病院でもないのに、年末から年明けに続々と患者を受け入れるようになった理由は『補助金』のためではないか、スタッフ全員がそう思っています」(横田さん)

 二度目の緊急事態宣言以降、コロナ患者を受け入れた病院には、重症者病床一床あたり1都3県なら最大1950万円、コロナ感染者病床一床あたり900万円。それ以外の道府県でも最大1800万円と750万円が支給されると厚労省が発表している。この額は年末にも増額が発表されていたが、さらに増やされた。医療関係者がかねてより政府に訴えていた「医療従事者への支援」の一環である。

「院長や夫人、経営者たちは、今いる看護師にわずか十数万円の一時金だけ握らせて、倒れるまで働かせようとしている。実際にはやめていく人もいて人不足のため、こっそりコロナ患者のいない病院の看護師の引き抜きも行っています。私の看護学校時代の同級生は、夏までの契約で、私たちの倍以上の給料を提示されたと話しています」(横田さん)

 病院を維持するためには人件費以外にもお金がかかるものだし、コロナ対応のために収支のバランスが狂ったであろうことも理解している。だが、同期に持ちかけられた好待遇の内容を聞いて、病院の首脳陣たちを疑いたくなるのは無理もない話だろう。

 もし、経営陣が働く人たちのことを後回しにしているのだとしたら。医療従事者への支援のはずなのに、この支援金を目的にコロナ患者を次々受け入れてしまえば、本末転倒な結果になることは明らかだ。医療支援と言いながら多額の税金を捻出したところで、現場の最前線で働く人々に恩恵がもたらされないのであれば、なんの意味もない。貧困の独裁国に多額の援助をしたところ、困窮に喘ぐ国民には行き届かず、独裁者とその周囲だけが潤っただけ、といった例と同じだろう。病院ももちろん「経営」が大事ではあるが「人は石垣」というように、いくら立派な見かけの病院でも、そこから人がいなくなっては成り立たない。

 当然、横田さんが勤務するような病院は多くないだろうし、そう願いたい。だが、こうした声がある以上、政府や自治体も、今一度積極的に現場を調査し、医療従事者の直接的なバックアップを図って欲しい。病院も金銭的、人員的に逼迫している状況ではあると思うが、一時の延命のために、日本の宝である医療従事者を失うことも許されないのだ。

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