スポーツ

古賀稔彦が語っていた「97%の遊びと3%の頑張り」

バルセロナ五輪でも伝家の宝刀・一本背負いが炸裂した(AP/アフロ)

バルセロナ五輪でも伝家の宝刀・一本背負いが炸裂した(AP/アフロ)

 2021年3月24日、10時23分。ヤフーニュースの『柔道・古賀稔彦さん死去 53歳』の13文字に眼を疑った。 死因はがん。24日朝に自宅で亡くなったという。記事を読みながら、「あのときから実は体調が悪く、無理していたのでは……」とふと思った。

昨年11月中旬、『週刊ポスト』の企画で古賀に電話取材した。「トップアスリートが語った大ケガとの知られざる戦い“痛い!瞬間”」という記事で、取材は1時間弱ではあったが、非常に有意義な話を聞かせてもらった。 そのとき掲載しきれなかったインタビュー内容を、追悼の意味を込めて公開したい。

 取材前の勝手なイメージとして、柔道家とは質実剛健で求道者のごとく日夜鍛練に励み、口数が少ないものだと思っていた。しかも相手はバルセロナ五輪71キロ級金メダルをはじめ、輝かしい勲章を持つ「平成の三四郎」である。

 しかし、実際の古賀は開口一番「どうも~」と、まるでお笑い芸人のような明るい声だった。電話越しでも人懐っこさが十分にわかる。

「あまり堅い話もなんですからね~。気楽になんでも聞いてください」

 その言葉通り、こちらの質問に対し懇切丁寧に答える古賀。あっけらかんとした口調で、時折抑揚をつけながら楽しそうに話してくれた。

「バルセロナで金メダルを取ったあとは、周りから『変に負けるよりもこのまま終わったほうがいい』という声があったんです。25~26歳というのは、当時(の現役選手として)は結構おじさんでしたからね。でも、勝負したい自分がいると気づいた。周りから見て格好良く終わるよりも、自分の中に勝負魂が残っているのであれば、素直になってやってみようと思ったんです。思い通りの結果が出なくても、悔いは残らないし」

 バルセロナ五輪が終わった後、古賀は2年間、完全休養に当てた。エネルギーがすっからかんになったことで、次の目標を決めることなんてできなかったのだという。完全に柔道から離れることでエネルギーをチャージし、フルになったときに次のことを考えればいいと思ったという。

「アスリートに言いたいのは、1つの目標に到達したら無理して次の目標を設定する必要はないということ。時間が経てば考えるエネルギー、挑戦するエネルギーが充電されるので、エネルギーが満たされたときに判断すれば、良い判断になる。お腹一杯のときに焼肉食べたって美味しくないでしょ。腹が減ってから食べたほうが美味しいに決まっているし、食べたいものも見えてきます」

今も語り継がれる小川との死闘(築田純/アフロスポーツ)

今も語り継がれる小川との死闘(築田純/アフロスポーツ)

 古賀稔彦の柔道人生を語るうえで欠かせないのが、1990年4月29日の全日本選手権だ。階級制が当たり前になった時代、体重無差別の全日本選手権に71キロ級の古賀が出場したのだ。バルセロナで金メダルを取る2年前のことである。 当時22歳の小川直也が前年度の全日本選手権優勝、さらに1989年世界選手権95キロ超級優勝、無差別級優勝と2階級制覇し、脚光を浴びていた時期である。

「もともと無差別でやるのが大好きだったんです。中学・高校・大学は団体戦があったので大きな選手とやる機会もあり、『よーし、やってやろう!』というタイプでした。全日本選手権に出る前、71キロ級で世界チャンピオンになれたので、次は無差別級でやってやろうと挑戦した感じです」

 しかし、古賀は試合直前にアクシデントに襲われていた。

「試合前日の夜中に39度の高熱が出てしまったんです。夜中から朝まで厚着して、たくさん汗をかいて熱を冷ますという昔ながらの対処をしました。でも、たくさん服を着こむから苦しくて、気持ち悪くなって眠れない。朦朧としながら会場に行きました。試合が始まるまで氷で頭を冷やして横になり、試合になったら立ち上がり、終わったら横になるの繰り返し。でも今思うと、そういうピンチがあったからこそかえって集中でき、試合と向き合えたのかもしれません」

関連記事

トピックス

永野芽郁のマネージャーが電撃退社していた
《坂口健太郎との熱愛過去》25歳の永野芽郁が男性の共演者を“お兄ちゃん”と呼んできたリアルな事情
NEWSポストセブン
ウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(23)がナイフで切りつけられて亡くなった(Instagramより)
《監視カメラが捉えた残忍な犯行》「刺された後、手で顔を覆い倒れた」戦火から逃れたウクライナ女性(23)米・無差別刺殺事件、トランプ大統領は「死刑以外の選択肢はない」
NEWSポストセブン
国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン
国民に「リトル・マリウス」と呼ばれ親しまれてきたマリウス・ボルグ・ホイビー氏(NTB/共同通信イメージズ)
ノルウェー王室の人気者「リトル・マリウス」がレイプ4件を含む32件の罪で衝撃の起訴「壁に刺さったナイフ」「複数の女性の性的画像」
NEWSポストセブン
愛子さまが佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”とは(時事通信フォト)
《淡いピンクがイメージカラー》「オシャレになった」「洗練されていく」と評判の愛子さま、佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”
NEWSポストセブン
年下の新恋人ができたという女優の遠野なぎこ
《部屋のカーテンはそのまま》女優・遠野なぎこさん急死から2カ月、生前愛用していた携帯電話に連絡すると…「ポストに届き続ける郵便物」自宅マンションの現在
NEWSポストセブン
背中にびっしりとタトゥーが施された犬が中国で物議に(FB,REDより)
《犬の背中にびっしりと龍のタトゥー》中国で“タトゥー犬”が大炎上、飼い主は「麻酔なしで彫った」「こいつは痛みを感じないんだよ」と豪語
NEWSポストセブン
(インスタグラムより)
《“1日で100人と寝る”チャレンジで物議》イギリス人インフルエンサー女性(24)の両親が現地メディアで涙の激白「育て方を間違ったんじゃないか」
NEWSポストセブン
藤澤五月さん(時事通信フォト)
《五輪出場消滅したロコ・ソラーレの今後》藤澤五月は「次のことをゆっくり考える」ライフステージが変化…メンバーに突きつけられた4年後への高いハードル
NEWSポストセブン
石橋貴明、現在の様子
《白髪姿の石橋貴明》「元気で、笑っていてくれさえすれば…」沈黙する元妻・鈴木保奈美がSNSに記していた“家族への本心”と“背負う繋がり”
NEWSポストセブン
ドバイのアパートにて違法薬物所持の疑いで逮捕されたイギリス出身のミア・オブライエン容疑者(23)(寄付サイト『GoFundMe』より)
「性器に電気を流された」「監房に7人、レイプは日常茶飯事」ドバイ“地獄の刑務所”に収監されたイギリス人女性容疑者(23)の過酷な環境《アラビア語の裁判で終身刑》
NEWSポストセブン
Aさんの乳首や指を切断したなどとして逮捕、起訴された
「痛がるのを見るのが好き」恋人の指を切断した被告女性(23)の猟奇的素顔…検察が明かしたスマホ禁止、通帳没収の“心理的支配”
NEWSポストセブン