菅義偉・首相の訪米日程か決まり、バイデン大統領との首脳会談は4月16日と発表された。日本政府としては外交パフォーマンスで得点稼ぎしたいのだろうが、バイデン政権が置かれた状況をよく理解しないとアテが外れることになるだろう。
日程を発表する記者会見で加藤勝信・官房長官は、「菅総理大臣が各国首脳に先駆けてバイデン大統領と行う、初となる対面での首脳会談だ。日本を極めて重要視している証しであり、日米同盟の結束を対外的に示すとともに、インド太平洋地域へのアメリカのコミットメントを示すうえで極めて意義深い。個人的な信頼関係を構築するうえでも良い機会になるものと考えている」と述べたが、アメリカで聞いていると違和感しかない。
中国に手も足も出ないバイデン氏の苦境を理解していないのか、もしくはアメリカ国務省の依頼で外交辞令を述べただけなのかわからないが、もしアメリカ人が聞いたら吹き出してしまうだろう。バイデン政権の対中政策で中国が人権弾圧や周辺海域での力による現状変更を改めると考える専門家も国民も皆無である。そもそも、バイデン氏は極東外交に本気でコミットする余裕などまるでない。
ワクチン接種が進んでいるとはいえ、アメリカのコロナ危機は深刻だ。むしろワクチンが普及してきたことで、飲食店などの営業制限、マスク着用の規則をどうするか、国民の意見はバラバラで対応が難しい。民主党支持者であっても、いい加減に普通の生活を楽しみたい市民の不満は大きく、ビジネスや生活の規制は崩壊寸前である。こういう面ではアメリカ人は日本人のようには我慢ができない。
社会不安や国民の不満を背景に、連日のように起こる銃の乱射事件。政治家や専門家からは、銃規制や精神障害者の監視など、少なくとも事件防止には効果的と思われる政策も提言されているのだが、いずれもイデオロギーが絡む難しい議論が必要だから、政権基盤が軟弱なバイデン氏にできるはずがない。銃規制をやろうとすれば、ライフル協会、共和党タカ派、右翼などが立ちはだかるだろう。障害者の監視などは党内左派の反対ですぐに潰される。
バイデン大統領は、人種的不平等に対処することなどを目的に掲げて、2兆ドルという途方もないインフラ計画を発表し、これに政権維持を託している。経済発展から取り残された田舎町の救済に莫大な予算を使うことが正しいかは疑問も多いが、バイデン氏が内政を優先しなければ政権を維持できないことは確かである。コロナで疲弊し、分断が決定的になった国民を振り向かせるには、カネを大量に印刷し、大インフレを起こすのが手っ取り早いのである。これは危険な賭けだが、バイデン氏は必死だ。
そんなバイデン政権が、日本の尖閣問題に本気で取り組むことなどあり得ない。友人であるジャーナリストのマイケルは、「中国の東シナ海進出は、日本の丸腰政策が引き起こしている問題だ。必要な軍事力を持とうとしない国家が他国の侵略を受けるのは、どんな時代でも必然だろう」と言う。そして、「日本はアメリカにとって対中国の砦である。日米安保条約はそのためにある。アメリかの助けを求めるより、まずは日本が砦で戦うべきだろう」と突き放す。やや誤解もあったので、日本が駐留米軍に世界最大の資金提供をしていることを話したが、「カネを出しても米軍兵士の士気が上がるわけではない」と、にべもない。少なくとも、多くのアメリカ人の考えはマイケルに近い。