東海地方在住の坂田清美さん(仮名・40代)の母親(80代)も、事前予約を経て、ワクチン接種に向けた準備を行っていたが、そのことを親族や近隣住人に話したところ、コトは予想外の方向へ進んでしまった。
「ワクチンは危険だと主張する親族がいて、母はその人の話をまともに聞いてしまったんですね。ワクチンは打たない、とごね始めて、夫が何とか説得したのですが、今度は別の親族が『年寄りは打つ必要がない』と国の方針を批判し始めて……」(坂田さん)
その親族の主張とは、なぜワクチン接種が「高齢者優先」なのか、ということ。医療従事者や基礎疾患を持っている若い世代ならまだしも、老い先短い高齢者を優先して、働き盛りの世代が後回しにされるのはおかしい、というのである。やっとのことで接種を決意していた母親が、今度は「申し訳ないから受けない」と言い出し、坂田さんは再び頭を抱えた。
「長く見積もって生きたとしても、あと10年、私が受けるより子供たちが受けたほうがいいと言い出し、知らない間に自治体に電話し『娘や義理の息子に打って欲しい』と連絡していたんです。びっくりした役所の方が私に電話してきて知ったのですが、もうワクチンを受ける前から母は疲労困憊。こんな事なら予約取らなきゃ良かったと思っています」(坂田さん)
すったもんだはあったものの、無事ワクチン接種を完了したという坂田さんの母。今なお「私なんかが打たせてもらって」と恐縮しきりだというが、坂田さんとしては胸を撫で下ろしたいような気持ちだ。
先進国と比較して「遅れている」とされる我が国のワクチン接種。若い世代への接種が完了するのは今年中なのか、来年なのか、重症化するリスクが低いということで、子供たちへの接種は見送られるのではないか……。様々な憶測が飛び交っているが、やはり現時点で接種を受けられない者からすると、すでに受けた人や間も無く受ける人は羨ましく見える場合もあるだろう。ワクチン確保量や納入スケジュールがなかなかスムーズに進んでいない、という報道もあるが、接種のスケジュールが今以上に伸びたり、受けられない人たちが出てくるようなら、こうした混乱に拍車がかかる事は必至だ