国内

『神様のカルテ』夏川草介氏が見たコロナ病棟の実態、医師の苦悩

現役内科医でもある夏川草介氏が、コロナ診療の最前線で見たものは?

現役内科医でもある夏川草介氏が、コロナ診療の最前線で見たものは?

 ベストセラー『神様のカルテ』で知られる作家の夏川草介氏は、長野県で地域医療に従事する現役内科医でもある。勤める病院は感染症指定医療機関としてコロナ患者を受け入れ、夏川氏は診療の最前線に立った。その経験をもとにしたドキュメント小説を書き上げた今、初めてコロナ病棟の実態、医師としての苦悩を明かす。

 * * *
 私はこの春、一冊の本を上梓した。『臨床の砦』と名付けたこの書籍は、コロナ診療を題材に取った長編小説である。

 いまだ感染の収束も見えていない時期に、なぜ診療の合間を縫ってまで執筆をしたのか。自分でも正確な理由はわからない。格別の使命感があったわけではない。一介の内科医にすぎない私に、感染対策に対する特別な提言があるわけでもない。けれども、世の中のほとんどの人が知らない異様な医療現場に立ち会っているという、ぞっとするような確信だけは胸の内にあり、この景色を伝えることに意味があるのではないかと感じたことは事実である。

 今ここで何を述べても後付けになるかもしれない。もとより総括的なことを口にするのは早すぎる時期だ。ただ、コロナ診療の最前線で何が起きていたのか、私なりの考えを交えて、少しまとめておこうと思う。

驚くほど高い確率で陽性

 令和三年一月、私はいまだかつて経験したことのない医療現場に立っていた。

 外来は他院で診療を断られた発熱患者であふれかえり、病院前の小さな駐車場は絶え間なく訪れる患者の車列で移動も困難なほどになっていた。来院者の誰もが感染の恐怖におびえ、励ましながらPCR検査をすれば、驚くほど高い確率で陽性が確認された。

 感染症病棟はまたたくまに満床となり、病棟は、定員を超えて患者を受け入れている状態であったが、ニュースでは病床使用率50パーセントと報道され、患者から「残りの50パーセントのベッドを空けてくれ」と懇願されたこともある。正真正銘、どこにもベッドがないのだと説明しても、理解を得ることは困難であり、ときにiPadの画面の向こうから、怒声が返ってくることさえあった。

ほとんどの医療機関が拒否

 かかる悲惨な状況であっても、近隣の医療機関からの助力はほとんど得られなかった。敢えてはっきりと言えば、一施設を除いて、すべての医療機関がコロナ診療を拒否していた。入院受け入れを拒絶するだけでなく、発熱があれば、骨折患者であろうと膀胱炎の患者であろうと、診察もせずに当院に送り込んでくる状況であった。文字通り、経験したことのない医療現場であったのだ。

関連記事

トピックス

鮮やかなロイヤルブルーのワンピースで登場された佳子さま(写真/共同通信社)
佳子さま、国スポ閉会式での「クッキリ服」 皇室のドレスコードでは、どう位置づけられるのか? 皇室解説者は「ご自身がお考えになって選ばれたと思います」と分析
週刊ポスト
連覇を狙う大の里に黄信号か(時事通信フォト)
《大相撲ロンドン公演で大の里がピンチ?》ロンドン巡業の翌場所に東西横綱や若貴&曙が散々な成績になった“34年前の悪夢”「人気力士の疲労は相当なもの」との指摘も
週刊ポスト
お騒がせインフルエンサーのボニー・ブルー(インスタグラムより)
「バスの車体が不自然に揺れ続ける」“タダで行為できます”金髪美女インフルエンサー(26)が乱倫バスツアーにかけた巨額の費用「価値は十分あった」
NEWSポストセブン
イベント出演辞退を連発している米倉涼子。
《長引く捜査》「ネットドラマでさえ扱いに困る」“マトリガサ入れ報道”米倉涼子はこの先どうなる? 元東京地検公安部長が指摘する「宙ぶらりんがずっと続く可能性」
マンションの周囲や敷地内にスマホを見ながら立っている女性が増えた(写真提供/イメージマート)
《高級タワマンがパパ活の現場に》元住民が嘆きの告発 周辺や敷地内に露出多めの女性が増え、スマホを片手に…居住者用ラウンジでデート、共用スペースでどんちゃん騒ぎも
NEWSポストセブン
アドヴァ・ラヴィ容疑者(Instagramより)
「性的被害を告発するとの脅しも…」アメリカ美女モデル(27)がマッチングアプリで高齢男性に“ロマンス”装い窃盗、高級住宅街で10件超の被害【LA保安局が異例の投稿】
NEWSポストセブン
デビュー25周年を迎えた後藤真希
デビュー25周年の後藤真希 「なんだか“作ったもの”に感じてしまった」とモー娘。時代の葛藤明かす きゃんちゅー、AKBとのコラボで感じた“意識の変化”も
NEWSポストセブン
部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(時事通信フォト・目撃者提供)
《ラブホ通い詰め問題でも続投》キリッとした目元と蠱惑的な口元…卒アル写真で見えた小川晶市長の“平成の女子高生”時代、同級生が明かす「市長のルーツ」も
NEWSポストセブン
亡くなった辻上里菜さん(写真/里菜さんの母親提供)
《22歳シングルマザー「ゴルフクラブ殴打殺人事件」に新証言》裁判で認められた被告の「女性と別の男の2人の脅されていた」の主張に、当事者である“別の男”が反論 「彼女が殺されたことも知らなかった」と手紙に綴る
NEWSポストセブン
ものづくりの現場がやっぱり好きだと菊川怜は言う
《15年ぶりに映画出演》菊川怜インタビュー 三児の子育てを中心とした生活の中、肉体的にハードでも「これまでのイメージを覆すような役にも挑戦していきたい」と意気込み
週刊ポスト
韓国の人気女性ライバー(24)が50代男性のファンから殺害される事件が起きた(Instagramより)
「車に強引に引きずり込んで…」「遺体には多数のアザと首を絞められた痕」韓国・人気女性ライバー(24)殺害、50代男性“VIPファン”による配信30分後の凶行
NEWSポストセブン
本拠地で大活躍を見せた大谷翔平と、妻の真美子さん
《真美子さんと娘が待つスイートルームに直行》大谷翔平が試合後に見せた満面の笑み、アップ中も「スタンドに笑顔で手を振って…」本拠地で見られる“家族の絆”
NEWSポストセブン