そのエビデンスは誰にもわからない。ゆえに国民が納得するわけもない。国や自治体に従いはするが、本音のところは信用していない。三度目の緊急事態宣言、この面従腹背、面従後言も健在だ。どうせ何をやっても国民のせいにされる。PCR検査もワクチンも受けられないのに「お前らが悪いからコロナが広がる」とお上から言われ続けるのだから当然だ。ついには小池都知事、28日にはキャンプまで自粛しろと言い出した。もう何を抑え込みたいのやら、肝心のコロナがどこかに行ってしまっている。
「とにかく、今度の悪は酒なんですね。まさか家庭内に自粛警察がいるとは思いませんでしたが」
後者の愚痴はともかく、前者はもっともな話だ。駅ナカコンビニでは早々に酒類が引き上げられていた。売るなとは言ってないはずなのに、「自粛厨」を恐れていち早く売らないと決めたのか ―― いずれ街中のコンビニも酒類の販売を自粛するかもしれない。そこまでの命令、誰も下していないのに。疫禍の同調圧力とはかくも恐ろしいということを、我々はこの1年で知ったはずだ。令和の国防婦人会なんて勘弁願いたい。
社会全体が100年前の禁酒法時代のようになってしまった。さながらネオン自粛は戦中の灯火管制か。これまで因果関係も不明瞭なまま、悪とされてきた業界同様、酒とコロナの因果関係を明確に説明する気は国にも自治体にもないらしい。そうして国は、去年のいま時分の混乱そのままに迷走し、そのせいで国民もまた分断と辛苦の中にある。
それでも、入国者9万人のオリンピックは開催される ―― 。
【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、新俳句人連盟賞選外佳作、日本詩歌句随筆評論協会賞評論部門奨励賞受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)、『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太に愛されたコミュニスト俳人 』(コールサック社)6月刊行。