「内川さんのアドバイスって野球のセオリーと違うことがあるんです。でも、その言葉には凄く説得力があった。例えば、『フライを打つときはバットで上から（球の下半分を）切ったほうがいい、逆にゴロを打ちたいんだったらアッパーで（球の上半分を）すくったほうがいい』と言われて。野球の奥深さを勉強させてもらいました」
新日鐵住金かずさマジックで打撃練習していた時だ。後輩たちが「叩け！」「叩け！」と声を掛け合っていたが、ポップフライばかり上がる。松本が内川の助言を思い出して「アッパースイングで球の上半分をすくうように打ってみれば？」と伝えると、打球がゴロになった。これは一例に過ぎない。内川や多くの首脳陣から教わったこと、選手同士で意見交換した知識は、社会人野球で兼任コーチとして指導する際に大いに役に立った。
プロ野球の時は自分のことで一杯だったが、社会人野球で兼任コーチをして若手の指導をする立場を経験したことで視野が広くなった。社会人野球は都市対抗や日本選手権で優勝という大きな目標があるが、選手個々のビジョンは違う。プロ野球選手を目指す選手がいれば、社会人野球で1年でも長くプレーしたい選手もいる。性格もそれぞれ違うため、助言をする際に掛ける言葉も変わってくる。
「指導は正解がないのが面白いですよね。1つの打撃理論でも合う選手がいれば、合わない選手もいる。性格もそれぞれ違うから言いすぎるのも良くないし、言わないと不安になる選手もいる。僕みたいな選手がいたら？『自分の芯をしっかり持て』と伝えますね」
まだ指導する学校が決まっていない。「夜は眠れない日がありますよ」と笑う。不安をさらけ出すのは、芯が強くなった証だ。父親のような指導者に――。松本は大きな夢に向けて動き出している。
取材・文／平尾類（フリーライター）
