スポーツ

北の富士と玉の海 宿敵に捧げる「幻の不知火型土俵入り」があった

北の富士と玉の海の「北玉時代」が期待されたが…(写真は玉の海/共同通信社)

北の富士と玉の海の「北玉時代」が期待されたが…(写真は玉の海/共同通信社)

「栃若時代」「柏鵬時代」「輪湖時代」など2人の横綱の名を冠した“時代”はいくつもある。昭和の大横綱・大鵬が引退した後にやってくるとみられていたのが、北の富士と玉の海の「北玉時代」だった。

 2人の幕内対戦成績は北の富士の22勝21敗。ともに大関で迎えた1970年1月場所は、千秋楽結びの一番で対戦した。星ひとつの差で追う玉の海が本割りの土俵では勝利したが、優勝決定戦では北の富士が勝って2場所連続優勝。場所後に横綱へのダブル昇進が決まった。

 それ以降の10場所、2人は4回ずつの優勝を分け合う。1971年5月場所には大鵬が引退。いよいよ「北玉時代」が到来するはずだった。しかし──。

 同年10月に玉の海は急逝する。急性虫垂炎をおして大鵬の引退相撲で太刀持ちを務めたあと、手術を受けるも心臓動脈幹血栓症で亡くなったのだ。元NHKアナウンサーで大相撲中継を担当した杉山邦博氏が語る。

「北の富士が左四つで、玉の海は右四つが得意。明るくて野放図なキャラクターの北の富士に対し、玉の海は貧しい家庭に生まれて女手ひとつで育てられ、謙虚に自分と向き合う姿勢を貫いた横綱でした。何から何まで対照的な2人が、大鵬の次の時代をつくるはずだった。今でも残念で仕方がない。

 元大関・貴ノ花から聞いた話ですが、千秋楽の打ち上げが終わったあと、ほろ酔い気分でタクシーに乗っていると、神宮外苑付近をまわし姿でランニングする力士が見えた。目を凝らすとそれが玉の海だったというのです」

 相撲に打ち込む原動力が、北の富士の存在だった。片男波部屋の弟弟子で「玉の海二世」と呼ばれた元小結・玉輝山(萩尾正則氏)が振り返る。

「うちの横綱(玉の海)は“努力しないと天才(北の富士)には勝てない”とよく言っていました。北の富士さんは突っ張りもあれば、投げもある。うちの横綱は体が小さかったので組むしかなかった。北の富士さんと対戦すると不利な体勢になることが多かったが、うちの横綱はどんな技にも対応できる。右四つになれば万全だったが、左四つでも取れますからね。腰の粘りが凄かった」

 対照的な2横綱は常に互いを意識していた。亡くなった年の夏巡業中、玉の海が急性虫垂炎で緊急帰京すると、北の富士は“代役”を務めた。

「当時の巡業はA班とB班に分かれていたが、B班の玉の海が離脱したため、A班の北の富士がB班の土俵に駆けつけた。自身の雲龍型ではなく、玉の海の不知火型で土俵入りをして、ファンは喝采を送った」(杉山氏)

関連記事

トピックス

公務に臨まれるたびに、そのファッションが注目を集める秋篠宮家の次女・佳子さま(共同通信社)
「スタイリストはいないの?」秋篠宮家・佳子さまがお召しになった“クッキリ服”に賛否、世界各地のSNSやウェブサイトで反響広まる
NEWSポストセブン
舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』でハリー・ポッター役を演じる稲垣吾郎
舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』に出演、稲垣吾郎インタビュー「これまでの舞台とは景色が違いました」 
女性セブン
麻薬取締法違反容疑で家宅捜査を受けた米倉涼子
「8月が終わる…」米倉涼子が家宅捜索後に公式SNSで限定公開していたファンへの“ラストメッセージ”《FC会員が証言》
NEWSポストセブン
巨人を引退した長野久義、妻でテレビ朝日アナウンサーの下平さやか(左・時事通信フォト)
《結婚10年目に引退》巨人・長野久義、12歳年上妻のテレ朝・下平さやかアナが明かしていた夫への“不満” 「写真を断られて」
NEWSポストセブン
人気格闘技イベント「Breaking Down」に出場した格闘家のキム・ジェフン容疑者(35)が関税法違反などの疑いで逮捕、送検されていた(本人SNSより)
《3.5キロの“金メダル”密輸》全身タトゥーの巨漢…“元ヤクザ格闘家”キムジェフン容疑者の意外な素顔、犯行2か月前には〈娘のために一生懸命生きないと〉投稿も
NEWSポストセブン
司組長が到着した。傘をさすのは竹内照明・弘道会会長だ
「110年の山口組の歴史に汚点を残すのでは…」山口組・司忍組長、竹内照明若頭が狙う“総本部奪還作戦”【警察は「壊滅まで解除はない」と強硬姿勢】
NEWSポストセブン
バスツアーを完遂したイボニー・ブルー(インスタグラムより)
《新入生をターゲットに…》「60人くらいと寝た」金髪美人インフルエンサー(26)、イギリスの大学めぐるバスツアーの海外進出に意欲
NEWSポストセブン
大谷が購入したハワイの別荘の広告が消えた(共同通信)
【ハワイ別荘・泥沼訴訟に新展開】「大谷翔平があんたを訴えるぞ!と脅しを…」原告女性が「代理人・バレロ氏の横暴」を主張、「真美子さんと愛娘の存在」で変化か
NEWSポストセブン
「第72回日本伝統工芸展京都展」を視察された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月10日、撮影/JMPA)
《京都ではんなりファッション》佳子さま、シンプルなアイボリーのセットアップに華やかさをプラス 和柄のスカーフは室町時代から続く京都の老舗ブランド
NEWSポストセブン
ハワイ島の高級住宅開発を巡る訴訟で提訴された大谷翔平(時事通信フォト)
《テレビをつけたら大谷翔平》年間150億円…高騰し続ける大谷のCMスポンサー料、国内外で狙われる「真美子さんCM出演」の現実度
NEWSポストセブン
兵庫県宝塚市で親族4人がボーガンで殺傷された事件の公判が神戸地裁で開かれた(右・時事通信)
「弟の死体で引きつけて…」祖母・母・弟をクロスボウで撃ち殺した野津英滉被告(28)、母親の遺体をリビングに引きずった「残忍すぎる理由」【公判詳報】
NEWSポストセブン
部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(左・時事通信フォト)
《黒縁メガネで笑顔を浮かべ…“ラブホ通い詰め動画”が存在》前橋市長の「釈明会見」に止まぬ困惑と批判の声、市関係者は「動画を見た人は彼女の説明に違和感を持っている」
NEWSポストセブン