東京~鹿児島まで充電停止回数は「17回」に及んだ
そのスウィートな空気にいちいち水を差すのが“足の短さ”だ。
ホンダの技術陣は30分で航続200kmという急速充電受け入れ性をアピールしていたが、現実には30分充電後の走行距離は最大でも121km。1kWhあたり何km走れるかという電力消費率(電費)が伸び悩んだ区間では100kmを大きく割り込む有り様だった。
ボンネット上の黒いフタの下が急速&普通充電口
30分200kmという話をホンダのエンジニアから聞いた時、頭に思い浮かんだのは総容量62kWhの大容量バッテリーを積む日産自動車のBEV「リーフe+」。最大電流200アンペアを流せる最新の急速充電器を使えば、うまくいけば30分で30kWh近く充電できる。1kWhあたり7km走れるとすると、走行可能距離は200km強。
そのリーフe+でのドライブは、40kWhバッテリーを積む普通の「リーフ」とはまったく異なる様相を呈した。充電回数は40kWhのちょうど半分だったが、充電によるストレスは10分の1。こんなに走れるなら細かいことは言わないという気になるボーダーラインを超えたという感があった。
そこまでは望まずとも、30分で25kWh入り、リーフe+より軽い分1kWhあたり8kmくらい走れれば、ロングランで1充電200km走れる計算になる。また、従来型の充電器でも30分で20~22kWh(160~172km分=1kWhあたり8km)くらいは期待できる。BEVでのロングランで大事なのは総容量より充電受け入れ性なのだから、Honda eでも思うがままに走れるはず……というのが皮算用だった。
だが、実際にドライブしてみると、急速充電の受け入れ性と電費の両方が期待値を大きく下回った。急速充電はベストスコアで16.8kWh、悪いときは14kWh程度。これで平均電費が良ければまだ救われたのだが、そちらも振るわなかった。
一部区間で7km/kWhを上回ったものの、アベレージは6km/kWh前半。区間によっては5km/kWh台に落ちた。テスラ・モデル3に負ける数値である。バッテリーの使用範囲が総容量の35.5kWhよりはるかに狭く、28kWh程度だったことも計算外だった。
航続不足になるとパワーセーブがかかる。1充電100kmが目安のHonda eではそう珍しい光景ではない
東京から鹿児島まで寄り道を含めた走行距離は1655kmであったが、30分充電のための停止は実に17回に達した。これはBEVにとっては厳しいと言われる冬季に充電の入りが平凡な40kWh版リーフで東京~鹿児島をドライブしてみたときと同等の数値である。いくら街中ベストを標榜しているとはいえ、公約未達成もいいとこであるこの充電受け入れ性の低さはまったくいただけなかった。
日産系ディーラーで充電中。ホンダディーラーも急速充電器を設置するケースが増えているが、営業時間外は充電器が締め出されてしまうところ大半で、結局日産頼みに
それでもクルマがショボければ、しょせん遠乗りには不向きのシティコミュータだったかと諦めもついたのだろうが、先に述べたようにHonda eは走り味についてはスウィートそのもの、どこまでも走りたくなるような素晴らしさである。それが頻繁に充電で途切れるのは、感動的なコンサートや映画に浸りきっている最中に誰かから話しかけられるようなものだ。
欧州ではフィアットが「500e」というHonda eとよく似たコンセプトのBEVを出している。バッテリー搭載量は42kWhとHonda eより2割弱多いだけだが、最大で何と約240アンペアもの電流を流すことができ、気温20度前後の場合、実測値で30分で30kWh近く充電できる。フィアットにできてホンダにできないはずがないと思うと、余計口惜しくなる。