すべては子どもたちのために──大人たちのベクトルを合わせるのに佐伯さんの提唱するスキルは一役買っているようだ。
佐伯さんは、小牟田さんの振り返りノートに「素晴らしい。少しでもみなさんの役に立てば嬉しいです」と喜ぶ。
ところで、ビジャレアルは今季、欧州リーグ初優勝を成し遂げるともに、スペインリーグでも7位と健闘した。この躍進と指導改革は、結び付いているのだろうか。佐伯さんはこう話す。
「そもそも『勝ち』や戦績といったサッカーにおけるサクセスに直接的な影響力を持つ要素は、あまりにも複雑過ぎて言及できないものだと考えています。ビジャレアルはクラブの理念や、経営体質、メソッドの確立など、たくさんの取り組みをしているクラブですが、タイトル獲得と直接的な因果関係はないでしょう」
佐伯さんによると、スペインリーグでは1~7位までは、強化費が多い順番がリーグ順位に反映されるという分析結果も出ているそうだ。
「ただし、このタイトル獲得を機に、これからも同じ方向性でクラブを運営・経営していくための合意形成やモチベーションになることは間違いないでしょう」
【プロフィール】
佐伯夕利子 さえき・ゆりこ/1973年、イランのテヘラン生まれ。2003年スペインの男子リーグ3部で女性初の監督に就任。翌年よりアトレティコ・マドリ-ド女子チーム監督や普及育成副部長等を務めた。2007年、バレンシアCFでトップチーム育成を司る強化執行部のセクレタリーに。『ニューズウィーク日本版』で「世界が認めた日本人女性100人」にノミネートされる。2008年ビジャレアルCFと契約、育成部でスペイン代表を育てる重要なポストを担う。2010年からは女子部統括責任者兼トップ監督に就任するなどクラブをけん引。現Jリーグ常勤理事。