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1974年に発売された、阿久悠さん作詞の『円舞曲』 (写真/石田伸也さん提供)

 もう1つ、古賀さんの印象に残っているエピソードがある。それは、ちあきが参加したある舞台の稽古場で、共演者の若い男女が愛を交わすシーンで、キスをするかどうかでもめたときのことだ。

「その日の帰りの車の中で、ちあきさんは『キスしているように見せれば、別に本当にしなくてもいいのにね』と言って、サラリと微笑んだんです。

 演者に心がこもっていれば、たとえ唇が触れ合っていなくても、男女の交歓の情はしっかり伝わる。それがプロの表現者の仕事―そう言いたかったんだと思うんです」

 ちあきはプロ意識の高い人ではあったが、人を寄せ付けない人ではなかった。

「ある番組で共演したとき、ぼくが担当する5分くらいのミニコーナーのゲストがちあきさんだったんですが、収録の合間にニヤ~と笑いながらぼくのところに来て、『あなた、海援隊っていうの? 坂本龍馬よね? 私のスタッフにも坂本龍馬好きがいるのよ。

 実はね、ちあきなおみの“なお”は、坂本龍馬の“直(なお)”からもらったものなの』とおっしゃったんです。

 坂本龍馬には3つ名前があって、藩に届けた正式な侍名は坂本直柔なんです。直接お話ししたのは、これともう一度だけですが、そんなふうに気さくに話しかけてくれるかたでした」(武田)

 親しみやすい人柄に、共演者たちも魅せられていった。

取材・文/廉屋友美乃 取材/藤岡加奈子 写真・資料提供/石田伸也 写真/共同通信社 本誌写真部 参考文献/『ちあきなおみ 喝采、蘇る。』(石田伸也・徳間書店)、『ちあきなおみ 沈黙の理由』(古賀慎一郎・新潮社)

※女性セブン2021年7月1・8日号

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