その姿は狂気を孕んだものだったという。
「私は、高校生の頃からジャニスが好きで、よく聴いていました。彼女は故郷を追われるようにして歌手になり、孤独どころか孤絶だったようです。その姿がちあきさんに重なりました。『ちあきさんにもこんな孤絶と狂気の部分があったんだ』と、すぐに楽曲制作に取り掛かったのです」
まさに、天から何かが降りてきたかのように、スラスラと歌詞と曲が書けたという。それが、『夜を急ぐ人』だ。
「あの曲でちあきなおみは壊れていった、などと当時、世間で言われていたようですが、とんでもない。あの曲は、ちあきさんそのものを紙にペタッと貼り付けたようなもの。だから、歌詞に込めた意図なんて何もありません」
前衛的すぎたのか、まだ時代が追いつけなかったのか、オリコンの売り上げではチャートインすることがなかったが、この曲により新たな伝説が始まることとなる。
取材・文/廉屋友美乃 取材/藤岡加奈子 写真・資料提供/石田伸也 写真/共同通信社 本誌写真部 参考文献/『ちあきなおみ 喝采、蘇る。』(石田伸也・徳間書店)、『ちあきなおみ 沈黙の理由』(古賀慎一郎・新潮社)
※女性セブン2021年7月1・8日号