「いやー、コロナで大変ですよ」
優一氏が私をここに誘った理由の1つは、こうして皮革業界の先輩たちと良好な関係を築き、長い付き合いがあるのだと示したかったからかもしれない。実際、店内での優一氏はいっぱしの「靴職人」に見えた。
意表を突かれた優一氏からの「逆質問」
3回目の修行の日を迎えたが、少々気が重かった。前回優一氏から与えられた自主練を、ほとんどできていなかったからだ。
「少しでいいので、毎日練習してみてください」
こう言われていたが、なかなか大変なのである。たとえば筋トレを毎日10分、英語の勉強を毎日10分、部屋の掃除を毎日10分。朝の散歩を毎日10分。こういう新しいことを“習慣化”するのは、一見簡単そうなことでも、なかなか難しい。
工房での修行は2週間おきにやってくる。直後の1週間は「まだしばらく時間がある」と思っているうちに瞬く間に過ぎ、次の1週間はアレコレ立て込んでいるうちに、これまた一瞬で過ぎた。その間、2回だけ自主練をしたが、あまり上達は感じられなかった。
工房に到着して革すきをやってみてと指示され、手を動かすが、動きは相変わらずぎこちない。優一氏は私の手つきをチラッと見た後、紙袋をのぞいて自主練用に渡した革がほとんど減っていないことを確認。表情を変えることなく、無言で自分の持ち場に戻った。こういう時、無言が一番気まずいんだよなあ。
昼になり、前回と同じ洋食屋へ。食事を終えてコーヒーを飲んでいるときだったか、こんなことを聞かれた。
「週刊誌のゴシップ記事って、あれ何のために世の中にあるんですかね? 人の粗探しをして、何が楽しいんだろう」
優一氏が週刊誌やワイドショーを嫌悪していることは、これまでの言動や本人執筆の記事で、よく分かっていた。だが、週刊誌の仕事をしている者としては「意味がない」とは言いたくない。
「たとえば、愛妻家のイメージで広告に出ている芸能人がこっそり不倫していたら、裏切られた気持ちになりませんかね? 世の中に影響力のある人たちが本当のところどうなのかって、読者に知らせる意味があると思うんです」