しゃべりながら、それだけが理由ではない気がしていた。週刊誌やワイドショーの芸能記事には、確かに“下世話な興味”に基づくものもある。女優がスーパーで食料品を買っていたとか、人気女優が男と一緒に歩いていたとか、だから何だという記事もたしかにある。当の本人からしたら、放っておいてくれという感じだろう。そういう記事は「読者の興味を満たすため」にあるわけだが、芸能人というものが世の中から注目される存在である以上、仕方がない気がする。それに、キラキラして見える著名人の私生活の姿を伝えることは、その人の意外な一面を伝えることでもある。
“スウェット姿で生鮮食品を物色”といった記事は彼らの生身の姿を伝える記事でもある。煌びやかな“別世界”にいると思っていた人間も、一皮剥けば、我々と同じ世界を生きている人間だということが分かるからだ。下世話な興味は、人間というこの不可解な存在への興味でもあるのだ。だからこそ、歴史に名を刻んだ名横綱とその息子が互いに頭を悩ませている姿は、どうしたって読者の興味を引いてしまうのだと思う。大袈裟だろうか。
師匠は注文よりも「研究優先」
なんてことをぼんやり思ったが、そこまで説明し切れず、残っていたホタテフライと白米をかき込んだ。しばらくして、優一氏から自主練不足を指摘された。
「2週間に1度しかないので、ちゃんと上達してもらわないと、同じことの繰り返しになっちゃいますよね。そうしたら僕、西さん(記者)のこと500%嫌いになると思うんですよ」
まずい、次はちゃんと練習しなくては。気持ちを引き締め直した。
午後、工房で完成したばかりのゾウ革のブーツを見せてもらった。牛、豚、爬虫類のいずれとも違う、実に独特な手触りで光沢感があった。希少動物のため皮革そのものが非常に高価で、この一足のために材料費だけで30万円ほどかかっているという。研究を兼ねてサンプル品として作ったそうだ。
「これ、めちゃくちゃカッコよくないですか? いやーテンション上がるわー!」
靴が好きなのは、恐らく事実なのだろう。だが、ゾウ革の靴を作る前に、注文から年単位で待っているお客さんの靴を早く作ったほうが良いのでは……。そんな思いもよぎったが、弟子として出過ぎたことを言うのもナンだと考え、素直に新作を触らせてもらった。
■取材・文/西谷格(ライター)