「私は、50年商売やってきて苦労もしてきたからねぇ、最初は角打ちにするのを反対したんですよ。そやけど、どうしてもやるって言うさかい。(息子は)外で長いこと働いて苦労もしてきたと思うので、協力したくてね」と息子を労う優しい母、俊枝さんも店に立つ。
俊枝さんは、客らに“お母さん”と慕われ、店を盛り立てる存在だ。
「料理もこだわってはるけど、ここは古さと新しさが共存しとって雰囲気あるよね。昭和風の空間やけど、ロックの洒落たポスターが貼ってあって。店主がドラムもやっとるからかなぁ」(60代)と、常連客が語るように、店内は、料理や飲み物が書かれた黒板、カウンターなどを店主が手作りし、こだわりが詰まった空間となっている。
「この店の魅力はな、どら息子と甘い母親やね。お母さんは、息子には甘いが客には厳しい(笑い)。毎日4時から来てるけど、閉店10分前になるとあそこの目覚まし時計が鳴りよる」(40代、自営業)と、ずらりと酒が並ぶ棚に置かれた時計を指さすほろ酔いの常連客に、
「あんたも息子みたいなもんや。その目覚まし時計はわざわざ買うたんよ。住宅街やから騒がしくしたらあきまへんやろ」と、俊枝さんが笑顔で応戦。
「心落ち着く店ですよ。ここは皆お客さんのマナーがいいんです。なぜかって、お母さんがお客さんを教育してはるから。時間になると、もう帰りぃって言われるけど、翌日また来てしまう」(50代、宿泊業)
「お母さんにもうほどほどにしときぃって毎日怒られるけどな、ちゃんと見ててくれる人がいるって安心感があるさかい、気持ちがやさぐれたときにはここへ来てます」(30代)
「俺らシニア世代が落ち着いて飲める店だから、わざわざ電車乗って区をまたいではるばる来てます」(60代)と、仕事仲間とゆるりと飲んでいる紳士もいれば、
「会社の仲間たちとゼロ次会のつもりで来てたんやけど、気がついたらいつもずっといてしまう(笑い)。できたて熱々の店主の手料理が安いし旨いやろ」と、軒先のテーブルに並ぶつまみを次々とたいらげていく若者たちもいる。
「僕にとって生活にあたりまえのように存在する。暮らしに欠かせないライフラインみたいな店」(30代、医療系)とご機嫌の客が、目を細めてしみじみと飲んでいるのは焼酎ハイボール。
「ストレートな辛口。揚げもんでも刺身でもぴたりと合う。断トツに好きな酒やな」(同前)
(※2021年4月9日取材)